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急いで目に布を巻いて、服装を整える。特に目的もなく彼の隣でお城の中を歩く。
私の予想ではこのまま彼の部屋に連れていかれて、いかに彼の部屋の設備が素晴らしいか熱弁される気がする。
ヴィクターは超俺様系の王子だもの。自慢は得意分野だろう。
……そうなる前に先手を打たないと。
「休暇を一日頂いてもいいでしょうか?」
「ガキの分際で生意気だな」
ヴィクターは即答する。
誰のおかげで妖精を獲得出来たと思っているのよ。まぁ、何かして欲しくて手を貸したわけじゃないけど……。
いや、私は悪い女なの。これを盾に交渉出来るかもしれない。
「妖精の言葉を分かるのは私だけでは? 少しぐらい私の願いを聞いてくれても」
「あのじじい達もいることを忘れたのか?」
私の言葉に被せるようにヴィクターは言葉を発する。
うッ。それを言われたら何も言い返せないじゃない。それに、おじい様達をじじい呼びなんて、本当に怖いもの知らずね。
そう言えば、キイは私の魔力に負けたのよね。……ぶっちゃけ、私を手に入れた方が王座に就けるんじゃないかしら。
「キイは綺麗な部屋で大切に保管、じゃなくて見守られているのに、どうして私はこんなにも扱いが雑なんですか?」
「妖精は繊細なんだ。適当に接していいものじゃない。もしかしたら、消えてしまうかもしれないだろ」
「私も消えてしまうかもしれませんよ」
彼を横目で見ながら静かにそう言った。
私はこの先ずっとラヴァール国にいるわけではない。ある時、突然彼の目の前からいなくなるってことは可能性としては大いにある。
「妖精を手に入れることが王になれるための条件だが、俺は妖精よりお前を失う方が……」
「失う方が?」
私に聞こえないような声で呟いたのかもしれないけど、嬉しい事に私の耳はとても良いのよね。
ヴィクターは何も言わない。
妖精よりも私を失う方が痛手、不利益。私も自分で自分の価値ぐらいは大体分かる。
「王子は寂しがり屋なんですね」
私はいつもより声を明るくしてそう言った。
ここはあえて煽りスタイルでいこう。
「ああ、そうかもな。お前がいなくなったらこの城は静かになりそうだ」
……褒められてるの? いや、貶されてる?
分かりにくいわね。それに、何よその辛気臭い表情。ヴィクターに似合わないわ。
私はただ一日休暇を得る交渉をしようと思っていただけなのに。どうして激しい言い合いとかじゃなくて、こんな重たい空気になってるのよ。
「けど、すぐに慣れるわ。最初の少しだけ違和感を覚えて、いつの間にか私のいない世界が普通になるのよ」
「もしそうだとしても、お前はとんでもなく巨大な爪跡を残していくことになるな」
「あら、光栄だわ」
「……お前、もう少し訛りを意識した方が良いぞ。話し方が貴族だ」
ヴィクターはそれだけ呟き、歩く速度を速めた。
嘘でしょ……。女どころか貴族ってバレてるの?
私は混乱したまま急いで彼の背中について行った。