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本当の強さを見せるべきなのかしら?
いや、でもここは謙虚に……って、悪女が謙虚になってどうするのよ。けど、魔法は皆の前で披露しない方がいいだろうし。
「何をそんなに迷っているんだ。お前が自分のことを強いと言ったんだろ」
「それは王子に乗せられて……。それに、真の強さは見せびらかすものじゃないわ」
「どこぞの英雄の名言だ」
「英雄? 悪女じゃなくて?」
ヴィクターは顔をしかめる。おじい様まで、何言っているんだ、というような目で私を見つめてくる。
同じ血が流れているんだったら、私の言葉を読み取って欲しい。
「何を言っているんだ?」
後ろで、マリウス隊長の声が聞こえた。今彼がどんな表情をしているのか容易に想像がつく。
「悪女は悪だくみが得意なのよ。だから、自分の力を全てさらけ出すなんて間抜けなことはしないの」
「……それで、それがどうしたんだ?」
ヴィクターは怪訝な表情を浮かべたまま言葉を発する。
もしかして、彼らに私の悪女らしさが伝わっていないの?
そりゃ、悪女は自分から悪女って名乗らないわよね。
私は悪女ですって言う自己紹介カードを首からぶら下げておけば、「あ、あの人は悪女なんだ!」って簡単に分かって便利なのに……。
「つまり、私は悪だくみを考えているということです」
「悪だくみを考えている人間がわざわざご親切にそんなことを教えてくれるとはなぁ」
急にヴィクターがニヤニヤし始めた。
よく表情がころころと変わる王子ね。デューク様と正反対だわ。
『さっきから、ずっと私のこと無視されてる……。可哀想なキイ……』
横で明らかに落ち込んでいる妖精が目に入る。心なしか、煌めきも減ったような気がする。
……妖精って繊細なのかしら。
「ごめんね、キイ。後でいっぱいお話しましょ」
『…………どこが悪女なの?』
キイは俯いていた顔を急に上げて、真顔でそう呟いた。
もはや、妖精にもからかわれるようになってしまったわ。私の方が魔力強いはずなのに……。
「どんな悪だくみを考えているんだ?」
ヴィクターはキイのことなど無視して私に話しかけてくる。
妖精の言葉が聞こえないといえども、もう少し妖精に気を配ったらどうかしら。
というか、悪だくみなんて、さっき適当に言っただけで全く何も考えていなかった。
ヴィクターは楽しそうに私の方を見つめる。彼の方が悪だくみをしてそうな表情をしている。
「悪だくみを話してしまっては、意味がないじゃないですか」
私は満面の笑みでそう答えた。
これは、余計なことを何も言わないで乗り切るしかない。
「確かにそれもそうだな」
ヴィクターはあっさり頷く。
良いことなんだけど、こんなに簡単に納得されるなんて、かえって怖いわ。
彼は小さく口の端を上げて、私を真っ直ぐ見つめる。その表情に思わず背筋に悪寒が走った。
何か嫌なことを言われる予感しかない。もしかして、悪だくみを考えているなんて言ってしまったから斬首刑……? そうなったら逃げるしかないわね。
「常にお前を見張っておけばいい話だ。今日からお前は俺の部屋で寝ろ」
…………は??




