285 十六歳 ウィリアムズ家長女 アリシア
……マリウス隊長、なんて馬鹿力なのかしら。
体を机に強く押さえられて、逃げられない体勢になっている。
ヴィクターの圧に全体の空気が張り詰めている。彼は黙って私の頭にお酒をぶっかける。
あら、レディーに対してのマナーがなっていないわね。そんなに第一王子のことが嫌いなの?
睫毛からお酒が滴る。
「指を出せ」
二度と魔法を使えないようにしてやる、彼の目はそう言っているように見えた。
全く、誰のおかげで妖精が手に入ったと思っているのかしら。
「あの眼鏡から私の情報を他に聞き出しました?」
私はヴィクターの瞳を見据えながら質問した。あの眼鏡というのは闘技場の支配人のことだ。
よくこの状況でそんな質問が出来るな、という目でマリウス隊長達が私の方を見る。
「特に大した情報はねえよ。お前が国外追放された身で、頭のおかしなガキってことぐらいしか」
顔をしかめながらヴィクターが答える。
ということは、あの支配人には私のことを探られていないってことよね。今なら不敬罪でもう一度あの闘技場に戻れるかしら。
もう少し、あの中のことを調べてみたかったのよね。
「何を考えているんだ?」
「王子は私の指なんか切れませんよ」
私は満面の笑みでそう言った。
それと同時に私は思い切り足を背中の方に上げてマリウス隊長を蹴るように体を持ち上げ、そのまま机の上に足を乗せて、立ち上がった。マリウス隊長はまともに顔に私の蹴りを食らって、ぐらついていた。
私とヴィクターが会話をしていくうちにマリウス隊長が私を押さえる力が弱まっていくのが分かっていた。
案外あっさりと抜け出せたわね。
「これは随分と柔らかい身体だな」
ケイト様が感心する様子で私の方をまじまじと見ながらそう言った。
私は座っているヴィクターを見下すように睨みつけた。予想外の行動だったのか、彼は目を丸くして私を見ている。
「王子が想像しているよりも私は強いので」
彼を見ながら、悪女っぽく口角を上げる。
女だとバレたんだもの、しっかり悪女をしないと!
『何かうるさいと思ったら、私が寝ている間になんでこんなことになってるのよ!』
突然キイの叫び声が聞こえてた。私の横で彼女は羽をパタパタと動かしながら飛んでいる。
ごめんね、キイ。今は貴女に構っている暇はないの。だから、無視させてもらうわ。
「確かに俺はお前の強さなんぞ知らねえ。だから、教えてくれ。お前はどれくらい強いんだ?」
急に態度が改まる。さっきまでの殺気はどこに行ったのよ。多重人格なの?
「お前の限界がどこまでか教えてくれ。こればかりは直接本人に聞かないと分からないからな」
……もしかして、私、ヴィクターにはめられた?
私の強さがどれくらいのものなのか知りたくて、演技してたってこと?
ヴィクターがニヤリと小さく笑うのを見逃さなかった。私は盛大にため息をつく。
どこの国の王子も私より一枚上手なのね。




