281
僕の雰囲気が変わったのを察したのか、キャザー・リズの表情が少し引きつるのが分かる。
ごめんね、キャザー・リズ。僕も悪気があって、君を嫌っているわけじゃないんだ。
僕の本能が君を拒絶しているから、どうしようもない。
「そもそもアリシアのどこが孤独なの? 孤高って言葉の方がまだ合うよ」
「だ、だって、あんなに皆を拒絶しているのよ!? 人と向き合おうとしていないじゃない」
「僕とは向き合ってくれたよ」
「じゃあ、どうしてこの学園の生徒に対してあんなに冷たいの? もっと人に優しく接するべきよ。いくら大貴族でも、人にやられて嫌なことはしちゃいけないわ」
「取捨選択。自分に利益のある人間とそうでない人間を選んでるんだからしょうがないんじゃない。……全人類が皆仲良し、なんていうのは絶対にありえないよ」
僕の言葉にキャザー・リズは目を大きく見開いたまま固まっている。
どうやら、もうこれ以上言葉が出てこないようだ。
僕が言っていることが生意気なことだというのは理解出来る。けど、キャザー・リズが言っていることも生意気だ。
少しの時間でもその人と向き合えば、どういう人間かは大体分かる。キャザー・リズの周りの人間達がまともじゃなかっただけのことだ。
それに、アリシアはキャザー・リズと向き合っている。彼女の監視役として。
「むしろアリシアに感謝しないといけない側なのに」
彼女に聞こえないように小さな声でそう呟いた。
「じゃあ、僕はこれで」
これ以上ここにいても何も生まれない。
彼女の前から立ち去ろうとしたのと同時にリズが言葉を発した。
「ち、ちょっと待って。ジル君。お願い、私の話を聞いて。これで最後にするから」
リズが懇願するように僕を見つめる。
どうしてこんなに必死なんだろう。もしかして、学園に友達がいないのか?
「こんなこと君に言おうとしている自分がおかしいって思うけど、それでもジル君に聞いて欲しいの」
今にも泣きそうな表情を浮かべる。
これでも一応僕は男だ。女の子の泣き顔を見て放ってはおけない。というか、このままキャザー・リズを無視したらアリシアに怒られそうだ。
「何?」
「聞いてくれるの?」
「ちょっとだけね。だから、とっとと話して」
結構乱暴に言ったつもりだったのに、リズは嬉しそうに笑みを浮かべた。
……そんなに話し相手が欲しかったら、リズ信者達に話した方が同情してもらえるのに。
「ありがとう。……私ね、誰にも話したことないんだけど、平民出身って言うのがずっとコンプレックスだったの。どんなに自分に言い聞かせてもやっぱり身分はどうしようも出来ない。周りからは軽蔑の目で見られる。自分らしくいれば大丈夫って思っても、あんまり上手くいかなくて」
そう言って、キャザー・リズは小さく苦笑する。そして、一呼吸置いて、また話を続ける。
「他の生徒たちがアリシアちゃんに向ける軽蔑の目。私はあの目を知っているの。あんな敵意丸出しの目を向けられて平気な子は一人もいないわ」
…………アリシア、めっちゃ喜んでるよ。
僕の目を見ながら真剣に話すキャザー・リズを見ながら、僕は心の中でそう突っ込んだ。




