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キャザー・リズは学園のありとあらゆる所の誰とでも、学年関係なしに仲良くしている。
人の黒い部分を知らないのだろう。どんなに態度が悪い生徒に対しても常に笑顔で接している。
彼女が人気な理由が少し分かった気がする。彼女の周りにいると心が浄化されるような気になるのだ。彼女の魔力が心地いいものなのだろう。
「ジル君?」
ぼんやりとキャザー・リズを観察していたら、いつの間にか彼女は僕の前に立っていた。
「え?」
「なんだか、私の方を見ていたような気がして」
彼女は優しく僕に笑顔を向ける。
僕が何も言わずにいると、キャザー・リズが話を続ける。
「今日はなんだか穏やかな雰囲気だね。今までずっと睨まれてたから私のこと嫌いなのかなって思ってた」
「ちが……」
何が違うんだ? 僕はキャザー・リズのことは嫌いだ。
彼女は眉を八の字にして小さく笑う。
今まで感じたことないのに、何なんだ。この妙な罪悪感は……。これが魅惑の魔法の力なのか?
それとも今まで僕がキャザー・リズのことを誤解していただけなのだろうか。
「ジル君はデュークと仲が良いの?」
「まぁ、それなりには」
「そうなのね! 私も彼と仲が良いのよ。凄いよね、デュークって。魔法に関しては最年少でレベル100になったし、賢いし、強いし、まさに理想よね!」
聞いてもいないのに、彼女は目をキラキラと輝かせてデュークについて話す。
「けど、時折どこか寂しそうな表情をするの……」
それはきっとアリシアがいないからだよ。
「私に何か出来ればいいのだけれど。最近はあまり話さないし……」
「前まではどんな会話してたの?」
「そうね……授業の話が多かったかしら。彼に質問したりすることが多かったわ」
どうして僕は彼女と普通に会話しているんだろう。それもなんの嫌悪感もなしに。
「本当はね、私、アリシアちゃんとも仲良くなりたかったの。今もそう思ってる。あんなに周りを拒絶するって、きっと孤独だからじゃないかな」
彼女は想像だけで話をする。
僕は黙って話を聞き続ける。キャザー・リズの話が楽しいからじゃない。彼女の考え方にしっかり向き合ってみたいからだ。その上で判断する。
「私、今でもアリシアちゃんを救えるって信じてるわ。手を差し伸べ続けたらいつか分かりあえる日が来ると思うの。だから、私は諦めないわ」
…………一体何を言ってるんだ?
キャザー・リズの頭の中がお花畑なのは知っていたが、まさか本当にここまでだったとは。
彼女は悪い人間じゃないが、僕にとってとんでもなく害のある人間だ。
少しでも心を許そうとしてしまった自分を恥じる。僕の手に負えない人種だ。
やっぱり、僕にはアリシアしかいないんだ。
僕は彼女の前で盛大にため息をついた。
「ジル君!? どうしたの?」
「国外追放になったのに、どうやって助けるんだよ」
キャザー・リズを嘲笑うようにそう言った。




