278 ジル十二歳
「何か分かったことはあった?」
僕の言葉にデュークは首を横に振った。
デュークに分からないことは流石に僕も分からないだろう。
誰もいない学園の旧図書室で僕とデュークはアリシアの性格が変わる日の前のことを調べていた。
少し前に、十二歳になった僕はウィリアムズ家で盛大に祝って貰った。アランはまだ僕を気に入らないようだったが、ヘンリとアルバート、そして、アーノルド、彼らには感謝しきれないくらい良くしてもらった。アリシアの母親もついに見ることが出来ると思っていたが、その日は用事で不在だった。
もちろん、デュークにも祝って貰った。彼からはある封筒を貰ったが、まだ開いていない。
その時に、アリシアの性格が変わった日の前日の話をしたのだ。
「どんなに調べても黒い薔薇の情報が一切ない。実際に直接見たかったな」
「そんなことよりも~! いいお知らせがあるんだけど!」
甲高い声が耳に響く。メルが頬を膨らませながら僕らの視界に入ってくる。ヘンリが彼女の後ろで苦笑いを浮かべている。
言うことをきかない子供とそれに苦労している親みたいだ。
「何だ?」
「アリアリの聖女認定を無事に終えました~! いえ~い!」
アリシアに殺されそう……。メル、今までありがとう。
というか、本人不在で出来るものなんだね。アリシアの今までの努力が水の泡だよ。あんなに悪女になりたがっていたのに、正反対のものを手に入れちゃうなんて。
「嬉しいけど、なんか複雑だよね」
僕の言葉に全員が大きく頷いた。
「本来なら認められて嬉しいはずのものなんだけどな」
「勝手にしちゃったから、アリアリ怒るかな~。けど、こうでもしないとデュークはアリアリと結婚できないもんね!」
ヘンリが呟いた後に、メルが声を上げてそう言った。
確かにそれもそうだ。デュークがアリシアと結婚するためには彼女を聖女認定しなければならない。
「案外簡単に出来るものなんだね」
「聖女認定よ!? 簡単に出来るわけないじゃない」
僕の言葉にメルは大げさに反応する。
「どうやったの?」
「国王陛下に会いに行ったの。そしたらすんなり聖女認定出来ちゃった」
「簡単じゃん」
「ジル、国王陛下に謁見出来ることがどれだけ大変なことか分かってないでしょ。まぁ、私はデュークというコネを使ったんだけどッ」
「アリシアをどうプレゼンしたんだ?」
僕とメルの会話にヘンリが入ってきた。
それは僕も気になる。そもそもメルってちゃんと失礼なく国王陛下と話せるんだろうか……。
「そりゃ、もちろん、アリアリは肌がすべすべで、あの美しい黄金の瞳には誰もが釘付けになって、可愛くて超美少女で、無敵で」
「俺が聞いた内容とは違うな」
デュークがメルの言葉を遮る。
「アリシアのこれまでの業績を事細かく説明し、彼女が聖女である資格を既に身に付けていると熱弁されたって父が言っていたけどな」
そう言って、ニヤリとデュークは笑う。その様子を見て、メルは顔を真っ赤にして叫んだ。
「デューク!! 信じられない! この王子! アリシアに言いつけてやる!」
なんだかんだ言って、メルはデュークに忠実なんだ。
「アリシアに言いつけたらだめだろう。聖女認定したことがバレるぞ」
「あ、そうだった」
「このことはアリシアに隠し通そう」
ヘンリの提案にメルは大きく頷いた。デュークも隣で「ああ」と小さく答える。
「そう長く隠し通せるとは思えないけど。……まぁ、ばれても僕は聖女認定に関しては全く関与してなかったってことで」
僕は満面の笑みでそう言った。