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「へぇ、俺よりも優秀な部隊を作るってか」
「お前のその自信は一体どこから来るんだ……」
ニヤリと笑うヴィクターの隣で、ニール副隊長が呆れた様子で私を見つめる。
歴史に残る悪女の部隊よ? 弱っちい隊なんて作れるはずないじゃない。
「一体お前は何を目指してるんだ?」
「なんでしょうね」
私は珈琲を一口飲んで、笑顔を作る。
今までだったら「世界一の悪女!」って答えていただろうけど、もう大人なんだもの。ミステリアスな女でいた方が魅力的よね。
それに前に言われたことがあるのよね。悪女は自分から悪女って言わないみたい。
……確かにそれはそうよね。自分から自分の性格を言うなんて馬鹿みたいだ。
聖女が自ら「私は優しくてこの世の平和を願っています、合掌」って自己紹介代わりに言っていたら引くもの。
「どこまで計算してるんだか」
ニール副隊長は私をまじまじ見つめながら口を開いた。
「何をです?」
「あの闘技場でライオンと戦った時に、国王陛下に気に入られることまで計算していただろ? しかも、あの日は元々違う人間がライオンと戦うはずだった。緻密に計算を立てた上でのことなのか、それとも本当に単なる偶然なのか」
ニール副隊長は疑うように目を細める。
彼の言葉でその場の空気が少し張り詰める。ヴィクターはただ黙って私が次に発する言葉を待っている。
流石副隊長。しっかりと私を疑っていたわけだ。
「それに、こんな小柄な子どもが何も出来ないと思っていたが、肺活量や筋力が尋常じゃない。人並外れたという言葉では表せないぐらいの潜在能力を秘めている。それに……お前は女だ。華奢な少女がどんな風に生きていたら、こんな風に育つんだ? これからもっと伸びることを考えたらバケモノだ」
悪口? いや、誉め言葉?
私は気ままに令嬢をしていたらこんな風に育ったんだけど……。
というか、ニール副隊長ってこんなに饒舌だったんだ。理路整然としている様子は変わらないけど……。
なんて答えればいいのかしら。返す言葉が見つからないわ。
「確かに、どんな育て方をしたらリアみたいな少女が育つのかは気になるところだ」
突然、ケイト様が話に入ってきた。興味津々の瞳で私を見ている。
「同感だ」
おじい様も落ち着いた様子で言葉を発する。その隣でマーク様も頷いている。
おじい様、もし私が孫娘だと気付いても、お父様を叱るようなことはしないでね。
「自由に生き過ぎた結果ですかね?」
私がヘラッと笑うと、ニール副隊長の目は更に鋭くなった。
もう、そんな目で女の子を睨まないでよ! いくら顔は良くてもモテないわよ!
「自由に生きて、国外追放されて、ライオンと戦って、今殿下のお気に入りになっているってことか?」
「凄いわね、それ」
「お前のことだ」
実際に言葉に出されてみると驚く。私、かなり悪女らしいことしているんじゃないかしら。
だって、国外追放先で王子のお気に入りなんて、悪女として百点満点よ。素質あるわ。
「使えねえなら元の国に送り返してやろうかと思ったが、お前はこれから先も俺の手元に置いておきたい人材だ」
……あら。それはまずいわ。
ヴィクターの言葉に思わず思考が停止した。




