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街に入っていくと、私が想像していたよりもはるかに賑わっていた。
人々は明るく、元気だ。多少の言い合いはあっても治安が悪いというわけではない。
もっと喧嘩が勃発しているかと思っていたわ……。やっぱり自分の目で見て、耳で聴いて、体験するって大切ね。
こんなに色んな個性の人達で溢れている街なのに、一番目立っているのは私達だ。
勿論王子の身バレ防止の為に、彼はマントで顔が見えないようになっている。おじい様達も顔を隠している。私は彼らの馬の陰に隠れながら歩いている。
ヴィクターは馬に乗せてくれない。さっき私が反撃したから、ちょっと癪に障ったのかもしれないわね。
「マリウス隊長~~!!」
「ニール様よ! こっち向いた!」
「他の人達は誰かしら。マントでお顔が見えないわ~。もしかして、王子様かしら!」
「んなわけあるか! 王子がこんなところに来るわけないだろ」
……このヴィクター直属の隊のせいでどうしても目立ってしまう。
こんなに有名で、民に人気あるとは知らなかったわ。傍から見たら、カッコいい騎士様達だもの。そりゃ、人気よね。
「ケレス様ッ! もしよければ……」
そう言って、頬を赤く染めた可愛らしい女性が彼に香ばしい匂いが漂うクッキーの入った箱を手渡す。ケレスは慣れた手つきで箱を受け取り、「ありがとう」と優しく微笑む。
「え!?」
ちょ、ちょっと待って。ケレスってモブキャラよね? どうしてケレスも人気あるの?
「おい、お前今、滅茶苦茶失礼なこと思っているだろ。てか、顔に出てる」
「ケレスが女の子にお菓子貰ってる……」
「悪いか? 俺もなかなかの騎士なんだぞ」
ケレスはそう言って、不服そうな表情を浮かべる。
確かに腕のある兵士でなければ、王子の遠征メンバーに選出されない。……ということは、ジュルドも相当な腕の持ち主だったってことね。
「こちらの子は?」
ケレスにお菓子を渡した女性が私の方に視線を向ける。
あ、まずいわ。私も王子達と一緒に隠れていたかったのに。これ以上注目されたら面倒くさいもの。
王子達の方を振り向く。
ん? ……どこ!?
「消えた!」
「王子とあのお三方は先に行ったぞ。あまり人だかりがあるところにいない方がいいからな」
私が驚いていると、ニールはこそっと小さな声で教えてくれた。
行くなら、私も一緒に行きたかったわ。……だって、今、皆の視線が私に集まっているんだもの。
「最近我が隊に入隊したリアです」
ケレスは丁寧に女性に私のことを紹介する。
「も、もしかして、あの闘技場でライオンと戦っていた子?」
ニゲタイ。
「ああ! あの時の子か!」
「どこかで見たことがあると思ったわ!」
「俺は既に彼が布で目を隠しているから、あの時の少年だって気付いていたさ」
女性の言葉に周りが反応し始める。まるで珍獣にでも会ったかのような反応で私のことをまじまじと興奮した様子で見つめる。
私、いつの間にこんなに人気者になっちゃったのかしら。今までこんな目を大勢の人に向けられたことなんてなかったから変な気分だわ。
聖女ってこんな感じなのね。




