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「救う、ね」
僕は彼女を軽蔑の眼差しで見る。
口で言うのは簡単だ。しかし彼女の言っていることはとんちんかんで(お門違い)、今更過ぎた。
今となっては、もはや貧困村という村が地図上から消えたに等しい。まぁ、まだ公にはなっていないけど。
もし、貧困村の村人達が解放されたという情報が世間に知れ渡ったら大混乱しそうだな。
「私、沢山勉強して、魔法も上達して、絶対に貧困村を良い村にするわ!」
力強い目に見つめられる。
まだ何も知らないのか。もう既に無くなっている村を良い村にするのは難しくない。頑張れキャザー・リズ。
「笑顔溢れる明るい場所にするの」
今は無人村だけどね。
彼女の話なんて全く興味がないのに、キャザー・リズは勝手に話し続け、彼女の理想論を暫く聞かされる。
誰にも苦しんで欲しくない、心が浄化されるようなそんな村を作りたい、そんな世迷言を右から左へ受け流す。
苦しみがあるから、幸せの価値が分かるというのに……。
彼女と話せば話すほど、どうしてそんなにも無垢なのか分からない。キャザー・リズが語る理想は悪い事ではない。むしろ良い事だ。
それなのに、どうしてこんなにもイライラするんだろう。
「一番犯罪が多いと言われている村に一人で乗り込む勇気はあるの?」
彼女の話を遮り、僕は言葉を発した。
「え?」
「本当に僕らの幸せを想っているのなら、それぐらい余裕でしょ?」
「けど、私、まだ未熟だし……」
「そう言って、いつも何もしない。……全部あんたのエゴだ。貧困村に行って、直接村人の要求を聞いてみたら?」
僕の言葉に彼女がうろたえるのが分かる。
追い詰めすぎたかもしれないけど、自分より幼い少年に少し厳しいことを言われただけでこんなにうろたえるなんて意思が弱い。
アリシアはキャザー・リズを嫌っているようには思わない。むしろ自分には必要不可欠な存在だと思っている。
けど、僕にとって彼女は邪魔な存在でしかない。別に好き勝手してくれて構わないけど、僕の大好きな人の邪魔だけはしないでくれ。
まぁ、キャザー・リズが好き勝手してしまったら、この国は滅びかねないんだけど。
それに、前にデュークに言われた通り、僕らは彼女を利用しなければならない。これ以上、苦手意識を植え付けない方がいいか。
「まぁ、今となってはそんなことどうでもいいけどね」
「……どういうこと?」
キャザー・リズは眉を八の字にして僕の顔をじっと見つめる。
「あの村はなくなったから」
「なくなった?」
「そう。だから、もう気にしなくていいよ。……君の重荷は一つなくなったんだ」
自分で言いながら違和感を感じる。けど、まぁ、今は少しぐらい優しくしておこう。
「じゃあ、村人たちは? どうなったの!?」
どうして君がこんなにも貧困村に関心があるんだ。もしかしたら、僕の知らないところで彼女は彼女なりに色々と調べていたのかもしれない。
まぁ、もう遅いんだけど。
誰かが先に解決してしまったら、どれだけ他の人が頑張っていたとしても成果は認められない。研究者や科学者が治療薬を生み出すのと一緒だ。
当然、一番最初に発明した者のみが、称えられるのだ。




