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「殿下、私はレベッカといいます」
ネイトのことを無視して、彼女は深く頭を下げる。それに続き、周りの人達も頭を下げる。この村の人たちは礼儀を知らないから、とりあえずレベッカの真似をするしかないのだ。
この中でネイトだけが頭を下げなかったが、レベッカが軽くネイトの足の甲を踏み、無理やり彼にお辞儀をさせる。
こうやって見ると、彼がこの国の第一王子だという事を改めて実感する。
普段、気を遣うことなく話していたけど、それってもしかしたらとても無礼なことだったのかもしれない。
「俺は、皆に言っておかなければならないことがある」
デュークの低い声に反応して、全員が顔を上げ始める。彼の真剣な表情に緊迫した空気が漂う。
この村に初めて来るデュークが皆に伝えたいことって何なんだろう……。
「どれだけ酷い有様で廃れていても、ここが故郷だという人たちがいる。もう二度とこんな村に戻りたくなくても、この村はもう二度と今の形に戻らない。荒んだ場所だったとしても、皆が育った場所だ。悪い思い出ばかりじゃない可能性も」
「前置きはいりません」
レベッカはデュークから決して目を逸らすことなく話を中断させた。
彼の言動を僕も不思議に思った。デュークはいつもこんなくどくどと話さない。彼は彼なりにこの村人達の気持ちを考えているんだろう。
デュークは少し間を置いてから、また口を開く。
「……この村は開拓し軍事基地にする」
グンジキチ。……軍事基地!?
いきなり話が飛び過ぎて頭がついていかない。僕のあずかり知らないところで一体デュークはどれだけの計画を進めていたのだ。
全員が驚く表情を見せる中、じっちゃんはやはり動じていない。彼が慌てる姿を見たことがない。
流石デュークと血が繋がっているだけのことはある。じっちゃんはデュークの考えをある程度把握していたようだ。
「跡形もなくなるってことですか?」
「そういうことだ。この国の軍事力の低さは世界に焦点を当てた時に浮き彫りになる。きちんとした施設がなければ兵を強化することも出来ない」
一体この王子はデュルキス国をどういう国にしたいのだろう。デュークの考えていることはある程度分かってきたつもりだったけど、勘違いだったのかもしれない。
彼は僕よりも数歩先を見ている。
人は一歩先に進む人を優等生と言って、二歩先を進む人を天才と呼ぶ。……数歩先に進む人は変人だと思われる。これが世の理だ。
「あんたは一体何をしたいんだ?」
レベッカはネイトの足を思い切り踏みつける。ネイトは顔をしかめながら聞き直す。
「王子は、一体何をしたいんすか?」
「俺は、アリシアを自分の手中に置いておきたい」
……ん?
アリシアを自分の掌の中に収めておきたいのなら、矛盾が生じる。国外追放はデュークの目に届かない場所だ。
「いまいちよく分かってねえのって俺だけ?」
ネイトがレベッカの方を見る。彼女も首を傾げる。どうやら誰も彼の言葉を理解出来ていないようだ。
デュークは話を続ける。
「アリシアを自由にさせるためには俺の管轄を広げればいいだけの話だ。アリシアはそれを望まないだろうけどな」
彼の言葉で全員が察した。この王子が王子でいる理由はアリシアの為なのだと。
デュークの全ての目的がアリシアの為なのだ。絶大な魔力、並外れた鑑識眼、その頭脳明晰さは全てアリシアを守るため。けど、それを決して彼女に悟らせない。
アリシア、君はとんでもない王子に溺愛されているね。
沢山の方に私の物語を読んで頂けて本当に幸せです。
良いお年をお迎えください~!!




