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生きてここまで来られた私に勲章を渡しなさいよ、王子。
心の中でそう呟きながら、私はその場に立つ。少しずつ息が整っていく。残りの三人に視線を向けると、彼らはもう息が整っている。
……なんて体してるのよ。私ももっと鍛えないと。
「根性あるじゃねえか」
マリウス隊長はそう言って私にニカッと笑い歯を見せる。
ここから先はヴィクターが先頭を歩く。岩場から離れ、暗い洞窟のようなところへ足を進める。先の見えない道に私は一瞬怯む。
明かりも何もないのに、どうやって道が分かるっていうのよ。
それでもマリウス隊長やケレスは何も言わず、ヴィクターの後を追う。洞窟の中は暗いが、段々と目が慣れてくる。
泥水に数日浸からせた雑巾のような異臭がするけど、これくらいなら耐えられる。正直、貧困村の方が酷い匂いだった。
「いたッ」
ケレスの声が響く。足元にある大きな石にぶつかったようだ。
そんな彼の声を無視して、ヴィクターは壁に手を置きながら、慎重に前へと進む。
私はウィルおじさんに憧れて、周りの気配を感じ取る試練をしてきたからこれくらいなんてことないのだけど、普通の人にとったら恐怖よね。
懐中電灯……じゃなくて、ろうそくの小さな火もないこの闇に包まれた道をひたすら進まないといけないんだから。
そう思うと、先頭を歩くヴィクターの勇気は凄いわよね。一体どんな精神状態なのかしら。
マリウス隊長の場合、何かにぶつかっても彼の大きな筋肉で撥ね除けてしまいそうよね。
というか、誰もジュルドの話は一切しない……。まるで最初からいなかったみたいだわ。
もしかしたら、私が思っているよりもこの隊はシビアなのかもしれない。死んだ人間に構っている暇はないってことなのかしら。
「二手に分かれるぞ」
突然のヴィクターの声で、一同は歩くのを止める。
薄目で前の様子を確認すると、道が二つに分かれていた。全員にとって未知の世界だ。
片方の道から微かに水の音が聞こえた。……滝か何かあるのかしら。
「どっちかの道の先に何かあるのか……」
「両方ともに何かあるのかもしれないけどね」
「それか、両方とも何もないかもな」
ケレスの呟きに私とヴィクターが答える。
何もないって可能性を勝手に頭の中から除外していたわ。
ここまで来て何もないなんて……重刑よ。王子に逆立ちで城一周させるわよ。
「どう分けますか?」
「……俺とガキだ」
何故私!!!
「それで大丈夫ですか?」
「何か不満か?」
「いえ、ただ、チビには責任が重すぎるかと……」
「私もそう思います。新人のこいつに王子の命を預けるのは……」
マリウス隊長とヴィクターの会話にケレスが口を挟む。
ごもっともだわ。まだ私はどこの馬の骨とも分からないやつだもの。
彼らの提案に、王子は眉間に皺を寄せる。そして、そのまま私の方を睨む。
なんて威圧的な目……。というか、どうして私がそんな風に見られないといけないのよ!
「お前、俺を見捨てて逃げるか?」
「……はい?」
全くの想定外の質問に思わず変な声が出た。




