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「兄上、デュルキス国の新国王になるつもりはありませんか?」
国王は真摯に尋ねた。
その言葉にはじっちゃんだけでなくデュークも驚いていた。
いきなり過ぎて、頭が付いていかない。凡人にも分かる易しいゆっくりなスピードで話してくれ。
「……兄上は王の素質を持っている。それは小さい頃から貴方と一緒にいた私が一番よく知っている」
彼は真剣にそう語る。その口ぶりでじっちゃんが幼い頃、いかに秀でていたかがよく分かる。
「亡き父が許さないだろうな」
じっちゃんの言葉に国王は口を閉じる。少し戸惑った様子を見せる。
二人にとって共通点は父親だけ。異母兄弟ってどういう感覚なんだろう……。
一呼吸おいてから、国王はもう一度言葉をつむぎ始めた。
「父上から預かっていた手紙があります。……彼は最期まで兄上が貧困村に流されたことを知りませんでした。殺害されたと思い込んで、その理由が自分のせいであったと責めていました」
「そうか、真相を知らずに亡くなられて良かったのかもしれないな。なんせ、わしは国王殺人計画を企てた人間だったからな」
「……違います。兄上は絶対にそんなことをする人間ではないと父上は誰よりも知っていました」
その言葉にじっちゃんが少し動揺したのが分かった。
「魔法が使えなくなり、周囲の人間の態度が一変した。父もわしに失望し、わしを見ることもなくなった」
「どうやって兄上と接すれば良いか分からなかったのでしょう。もう少し側で面倒を見てやれれば魔力を失わずにすんだかもしれないと自分を責めていたんだと思います。その罪悪感から兄上と対面する回数も減り、誤解を招いた。父上もかなりダメージを受けていました」
「どうしてそんなことがお前に分かるんだ?」
「人並み外れた脳みそは持っていませんが、人間観察は得意なので」
そう言って、初めて緊張がほどけたような軽い笑顔を見せた。
「それに、兄上が亡くなったと聞いてから、父上は急激に衰えていき、そのまま亡くなりました」
初めて聞く事実に全員が驚きを隠せない。
前国王は女関係にだらしなく、能のない国王だという話も聞いたことがある。それに、実際この国では禁止されている妾を囲うこともしていた。
やっぱり噂は当てにしない方が良い。実際耳に入ってくる噂は真実の数十倍盛られていたり、全く違ったりする。
デュークもアリシアという性悪女に弄ばれているという噂が流れているぐらいだ。
「魔力を全て失っても父は誰よりも兄上に期待していた。羨ましいくらいに兄上を信頼してらっしゃった」
国王はその場を少し離れ、椅子の側に置いてあった小さな木箱から手紙を取り出した。やや茶系に変色した手紙だ。
それをじっちゃんにゆっくりと渡す。じっちゃんが少し緊張しているように思えた。
亡き王の最期の言葉なのだ。全く関係のない僕でも心臓の音がうるさくなるほどに緊張する。
じっちゃんは手紙を受け取り、ゆっくりと中を開いた。