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「もう、早く入ろう。国王が待っている」
僕だけ置いて行かれている感が否めないが、先に進まないといけない。
じっちゃんは小さく頷く。同時に、衛兵が重そうな扉を開く。
緊張感が漂う。今回ばかりはいつもと事情が違う。気を引き締めて、僕も中に入る。
国王は豪華で小さく細かい模様が彫られた椅子に座っている。
威厳があるように見えたが、じっちゃんを見た瞬間表情が変わった。
その表情は、怒りや嫌悪感は一切なく、嬉しさと罪悪感が混じったものだった。ただじっちゃんに会えたことに感動している。
目を大きく見開き、その瞳孔が微かに揺れているのが分かる。
「久しぶりだな」
いつもと少し違う若々しい口ぶりでじっちゃんはそう言った。
兄弟の感動の再会とまでは言えないが、国王は紛れもなくもう一度兄に会えたことを喜んでいる。
国王に対して初めて、幼いな、と思った。兄の前では弟の顔をするんだ。
というか、じっちゃん、いつも若々しい口調で話していたらいいのに。顔も整っているんだし。そしたら、今から結婚も夢じゃない。
「ルーク」
落ち着いた声でじっちゃんは国王の名を呼んだ。国王はその声にハッとして、我に返る。
「兄上……、お久しぶりです」
国王が、じっちゃんに敬語を使ってる……。村に帰ったら皆に教えてあげよう。
彼の声に緊張がみなぎる。
「……その瞳は」
「アリシアのものだ」
「やはり彼女は本当に……」
彼は目を見張る。
そりゃそうだよね。僕が口から言ったのと、実際に見て確認するのとでは大きく違う。
それに僕の知る限り、彼女の目に関してはたいして五大貴族の間では話題にならなかったっぽいし……。まぁ、あんな強烈な聖女がいたらしょうがないね。
「国外追放にされてしまったようだがな」
じっちゃんが特に寂しがる様子も見せず、嬉しそうにそう言った。
アリシアや僕の前だと優しく賢いおじいさんだったが、貧困村のリーダーになってから威厳が増した。そして、今、国王と話す彼は全く違う人に見える。
……どんどん若返っている気がする。
「彼女のことはデュークに任せている」
「大変な息子を持ったものだ」
「本当に、私の立場がないぐらいに優秀です。……兄上、私は貴方に言わなければならないことがあります」
そう言って、国王は椅子から立ち上がり、じっちゃんの方へと少し近寄った。
国王の動きは少し硬い。まだ緊張しているのだろう。
「謝罪しても許されることではないと分かっています。ただ、私の母の愚行をどうかお許しください。申し訳ございませんでした」
ゆっくりと丁寧にそう言って、彼は深く頭を下げる。
……謝った。国王がじっちゃんに謝った。
僕は驚きながら黙ってその様子を見ていた。暫くの間、部屋全体が静寂に包まれる。この妙な緊迫感が鼓動を速める。
じっちゃんは何を言うんだろう。全員が彼の言葉を待っている。
「謝るも何もそもそもお前は何も悪くないだろう」
その言葉に国王は顔を上げた。
「今思えば、私が上手く立ち回れなかったのが問題だ。自分の力を過信して油断していただけだ」
はめられて、酷い目に遭ったのに、こんなことを言えるじっちゃんに思わず釘付けになった。
皮肉でも何でもなく、彼は本心からそう言っている。
僕なら絶対に無理だ。同じ目に遭ってもらうか、もっと残酷な仕返しをするか、その二択しかない。……僕の性格が悪すぎるのか。
「この世界にあれくらいの汚いことは、ごまんとある」
国王は何も言わない。というより、何も言えないのだろう。
じっちゃんは話を続ける。
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