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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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「まぁ、絶対に死ぬわけじゃないけどな」

 私とケレスの会話を聞いていたのか、横からニール副隊長が割り込んできた。

「ただの迷信っすよね」

「死ぬって言うより、帰ってきた人間がいないという方が正しいな」

「つまり行方不明ってことですか……」

「その可能性もあるってことだ」

「帰ってきた人間は一人もいないんですか?」

「いるにはいるが、シチリンの話を聞いた事がない」

 ……ダメだわ、ケレスとニール副隊長が真剣な話をしているのに思わずシチリンで笑ってしまいそうになる。

 遠征メンバーに選ばれただけあるのか、シチリンの噂を聞かされてもケレスは弱音を上げることはなかった。むしろ、彼は覚悟を決めて顔を引き締めた。

「僕達も帰れなくなるのかな」

「なんだ、急に怖気づいたのか?」

「いえ、王子がわざわざそんな勝算のない計画に突っ込んでいくとは思えないので」

 私の言葉に真っ先に反応したのはおじい様だった。フッと軽く笑った。

 あら、私の話をちゃんと聞いてくれていたのね。

「まぁ、それはそうだな。殿下は聡い」

 尊敬の眼差しでニール副隊長はヴィクターの方を見た。

 少し横暴だけど、人望と行動力がある。悔しいけど、彼に王の気質があるのは認めざるを得ない。

 私の正体を知らないのに、使えるからと言って隊に入れてくれた上におじい様達に会わせてくれた。実力がなければ完全に捨てられるのだろうけど、こういう世界は嫌いじゃないわ。

 世襲制に甘えず、自力で国を作ろうとしている野心家はやっぱり評価されるべきだわ。……まぁ、ここではされているわよね。

「ア」

「もうそろそろ目的地に着くぞ」

 私がニール副隊長に質問しようとしたのと同時にマリウス隊長の野太い声が耳に響いた。

 アンチヴィクターはいるのかどうか聞こうと思ったけど、ニール副隊長に聞くのはまずいわよね。ヴィクターを慕っているんだもの。

「おお」

 兵士の一人のジュルドがようやく声を出した。

 目の前にある深さが分からない大きなどろどろとした灰色の湖に目を見開く。

 ……こんな汚い湖初めて見たわ。泥温泉みたい。それにとんでもない異臭を放っている。

 シチリンに入ってから馬で十五分ぐらいかしら。あんまり時間が経っていないような気がする。この林は入った時からずっと薄暗くどれくらいの時間が進んでいるのかが分かりにくい。

「お世辞にも綺麗とは言い難いね」

「そりゃこの湖全体が毒だからな」

 ヴィクターはぐつぐつと小さく泡が噴き出ている湖に馬から降りて、顔を近づけながら私の独り言に答える。

「一体何の毒?」

「飲んでみるか?」

「遠慮しとく」

 マリウス隊長とニール副隊長には敬語なのに、王子になるとタメ語になるのは何故かしら。

「人によって毒が変わるんだ。飲むと死んだり、吐血したり、軽いと腹痛や頭痛だけで終わるけどな。他にも体中が痒くなったり、情緒不安定に陥ったりする」

「気が狂うってこと?」

「ああ」

「そんな人に会ったことがあるんだ……」

 私の言葉にヴィクターの表情が少し硬くなった。

「で、とりあえずこの汚い湖をどうするの?」

 毒に侵された人についてはあまり触れず、本題に入った。

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