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「どうして私が女だと分かったのですか?」
「……逆にどうしてバレないと思ったのかが不思議だ。男と女じゃ骨格が大いに違う。いくら布できつく胸を巻いても意味はない」
ケイトが呆れたように早口でそう言った。周りの皆も彼の意見に賛同し、首を縦に振る。
「隊の皆にはバレなかったわ」
私が小さく呟く声にマークが反応する。
「あいつらは頭脳より筋力と思っているような奴らだ。仮にお前が女だと知れ渡っても実力で黙らせることが出来るだろう」
「女に負けたと分かった時のあいつらの顔を見てみたいなぁ」
ヴィクターがニヤニヤとガキ大将のような楽しそうな表情を浮かべる。
「こいつはかなりデキる。というか、こんなガキ今まで見たことねえよ」
「さっきからガキガキってうるさいわね。今日で十六歳よ」
私の言葉に一同が固まる。
あら、そんなにおかしなこと言ったかしら? 私とて人間よ、歳をとるのは当たり前。
「お前、今日が誕生日なのか?」
目を丸くしたままヴィクターは口を開く。
「そうよ。……え、何か問題があるの?」
「酒が飲める歳じゃねえか」
「え、違法でしょ」
お酒と煙草は二十歳からって散々言われてきたわよ。というか、誕生日って聞いたら普通心がこもっていなくても「おめでとう」って言うのが普通じゃない?
……ヴィクターに普通なんて求めちゃだめよね。
「ラヴァール国では合法だぞ。お前の元いた国では知らないけどな」
「私の元いた国ってどこよ」
即座にそう返したけど、内心物凄く焦った。
私がいつからこの国の人じゃないってバレたのかしら。
……目を見せたから? けど、ちゃんとラヴァール国の古語を話したし。私、抜かりなくこの国の人間を演じたわよね?
「お嬢ちゃんはこの国の人間じゃないのか。これは面白いな」
ケイトが一気に私に興味を持つ。彼が私を見る目は新種の花でも発見したような目だ。
「実は私もこの国の者じゃないんだよ」
存じております。
「この三人は今日からお前の教育係だ」
……は?
ヴィクターの提案に思わず口が開いてしまう。
おじい様達も初耳のようだが、驚きを表情に出さない。
「どうしてこの国の頭脳に私の教育を頼むのですか?」
ヴィクターは何も答えない。私は話を続ける。
「王子の言った通り、私はこの国の人間じゃないかもしれない。もしかしたら反逆するかもしれない。それなのに、私を成長させようとするなんて……。一体何が望みなんですか?」
「……お前は深く考え過ぎだ。ただ部下に色々学ぶ機会を与えただけだ。誕生日プレゼントだと思って受け取れ」
「確かに学は最も嬉しいプレゼントですけど……」
「そんなことを言う女は初めてだな」
「利益なしに貴方がこんなことをたかが部下にするはずがない。必ず裏があるんですよ」
「お前はその裏を何だと思っているんだ?」
何故それを私に言わせるのよ。ヴィクターの質問に私はまんまと乗ってしまう。
「私の能力を買いかぶり過ぎですよ。私はそんなに凄い人間じゃない。王子は学力、戦闘能力に卓越しているとお考えでしょうけど、私は貴方の役に立てるような人間じゃないですよ」
私の言葉に一呼吸置いて彼は答える。
「それはお前がこの国の人間じゃないからか? それとも他に尽くしたい人間がいるのか?」
どっちを答えても私がこの国の人間じゃないってことがバレる。……もう、ばれているんだろうけど。
王子の元で働いていて、王子に忠誠を誓っていない人間なんているわけないもの。
私が黙っていると、王子は小さくため息をついた。
「まあいい。俺もお前にそこまで期待していない。……もう行け」
飽きられたかしら。自分の言う事を聞かない部下なんていらないものね。
「では、失礼します」
私はそう言って、王子に背を向けてその場を離れようとした。
部屋を出るのと同時に、後ろから王子の声が聞こえた。
「まぁ、このお三方に何か教えて貰えるかどうかは、お前の実力次第だけどな」
……つまり、向こうが私を見込まない限り何も教えて貰えない。実力がなければ切られる。
選択は私になく、彼らにあるってことね。
こういう話大好きよ、最高に燃えるわ。




