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今、僕は何故かデュークと共に王宮にいる。廊下を歩きながら僕はデュークに尋ねる。
「ねぇ、本当に僕も行っても大丈夫なの?」
「当たり前だろ」
デュークが即答する。
国王が集めた者達は皆貴族だ。それなのに、貧困村出身の僕が出席しても良いのだろうか。アリシアの助手という形で過ごしてきたけど、今やそのアリシアは国外追放されちゃってるし……。
王子だからなかなか自由がないとデュークは言っていたけど、かなりギリギリを攻めてやりたい放題している気がする。
「着いたぞ」
そう言って、彼は大きく重そうな立派な扉の前に立つ。扉の隣に立つ衛兵が扉を開ける。
まるで今から国王陛下へ謁見するみたいだ。……まぁ、実際そうなんだけど。
もっとカジュアルに集まるのかと思ってた。あまりにもデュークとの距離が近すぎて、彼が次にこの国を背負う国王であることを忘れそうになる。
「よく来たな。君がジルか」
初めて、国王に会う。無能だ、といつも心の中で言っていたけれど、やっぱり実際に会うとその迫力というものは凄いものだ。
思わず僕は頭を下げる。これが現国王の威厳。…………だけど、じっちゃんの方が上だ。
「頭を上げよ。もう皆揃っている」
緊張感ある空気の中、国王の声が響く。
僕は頭を上げて、五大貴族の親子、キャザー・リズ、カーティスがいることを確認する。このメンバーを集めて国王は一体何をするつもりなんだ?
「君がジルか。……十一歳とは思えない目をしているな」
デュークの父親だ。声が少し似ている。
「君も我が息子も今から私が話すことは既に知っていると思うが、聞いてくれ」
もう知っている? デュークと僕が?
一体国王が何の話をしているのかさっぱり分からない。僕がそんな国の機密情報をいつ入手したんだろう。
国王が軽く目を瞑り、すっと息を吸う。その瞬間、緊迫した雰囲気になる。
全員が国王の言葉を静かに待つ。
「君たちはアリシアをどう思う?」
キャザー・リズ達の方を向きながら国王はそう言った。皆一瞬固まり、何故か気まずそうに言葉を詰まらせる。
国外追放になった人間をどう思うか、と言われても確かに答えるのは難しい。ましてや、彼女はアルバート、アラン、ヘンリの妹だ。
「……アリちゃんは、真っ直ぐで聡い女の子です。幼い頃からずっと彼女を見てきましたが、天才だと思います」
カーティスが沈黙を破るようにそう言った。
「僕は嫌いな人間はいないから、アリシアのことは好きですよ」
フィンもニコニコしながら答える。正直、彼が一番裏がありそうな気がする。
「天才はその才能の使い方を間違えたんだ」
彼女を褒めるような良い意見が気に入らないのか、ゲイルが言葉を発する。キャザー・リズの魔法にかかっていると思われるエリック、アルバート、アランは彼の言葉に賛同するように見える。
「才能の使い方を間違っているのは誰だろうね」
僕の言葉に全員が反応する。国王はただ黙って僕らのやり取りを見ている。彼が僕らをここに呼んだ意図が未だに分からないし、彼はいつになったら話をするのだろう。
「何が言いたいんだ?」
エリックが僕を睨む。
「才能の使い方って難しいんだよ。その才能を活かすか活かさないかは本人の努力と気持ち次第で全て変わる。……例えば、歌の才能が物凄くあっても、本人は歌うことが大嫌いで、楽器を弾きたいと思っているかもしれない。やりたいことと才能が一致するとは限らないんだよ」
「リズの何が気に入らないんだ?」
「全部」
ゲイルが眼鏡越しで僕を物凄い形相で見ているが、気にせずにそう答える。
本来なら恐怖を覚えるところなんだろうけど、こんなの何とも思わない。むしろ、貴族がこんな僕の話に耳を傾けてくれていることに嬉しさを感じる。
言いたいことを本人たちに全て伝えることが出来るチャンスが来るなんて思ってもみなかった。
僕はさらに言葉を続ける。




