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「情報その二! リズは無自覚で厄介な魔法を使っているみたいなんだよね~! ある古書によると、誘惑の魔法なるものが存在するらしく、それは聖女が持っている特別な魔法らしいよッ。……まぁ、私デュルキス国の古語そんなに知らないからあんまり読み取れなかったんだけど~」
……誘惑の魔法?
なんだその馬鹿げた魔法は。この国の聖女は一体どうなっているんだ。
けど、言われてみれば、リズ信者は異常だ。あまりにも彼女に溺れ切っている。妄信的に彼女を正しいと思い込んで、疑うことを知らない。
「何だ、その魔法……」
ヘンリは眉をひそめる。
「なんか、まるでリズが主人公の物語みたいだよね。クソむかつくわ……」
最後の方にボソッとメルは低い声で言葉を発する。
メルは性格が悪いわけではないが、言葉遣いはなかなか酷い。けど、僕は彼女が嫌いじゃない。ハッキリしているところが良い。
「そんな魔法一体いつ役に立つんだよ」
僕は思わず本音を吐露する。
「現に役に立ってるじゃん? だってもし聖女がとんでもないクズだったとしてもあの魔力は国に必要なんだよ。嫌われ者が聖女とか聞いたことないもん」
「無茶苦茶だな。他に聖女特有の魔法はないの?」
「あったような気がするんだけど~、私、古語あんまり知らないんだよね」
「その本を後で俺に渡してくれ」
デュークの言葉にメルはきょとんと固まる。
「いいけど、主って古語読めたっけ?」
「ああ。一応な」
「アリシアも読めるよ」
「えッ!? アリアリも読めるのッ!!? 流石うちらのアリアリッ!」
メルが興奮気味に僕の言葉に食いつく。ヘンリも目を丸くして驚いている。
「俺、ここにいてもいいのかって思うぐらい、周りが異常過ぎるわ。……俺の妹凄すぎないか?」
そんな真剣な表情を僕に向けられても……。
アリシアが凄いことなんて最初から知っているし。いつも僕らの想像を簡単に超えて、とんでもないことをしているけど。
「誘惑の魔法かなんか知らないけど、もしそれが本当なら色々とスッキリするな。……リズが無自覚ってのはなかなか厄介だけど」
「無自覚でこんな気持ち悪い魔法を使ってる聖女とか絶対に関わりたくないよね」
ヘンリの言葉に僕は即答する。
もし、その魔法が解けたら皆どうなるのだろう。やっぱり、アリシアが正しかったと思うのだろうか。アルバートやアランはアリシアの兄貴だ。彼らは自分の妹に謝るのだろうか。
色々な疑問が僕の頭に浮かんでくる。
「あとね、国王が近々皆を集めるっぽいよぉ」
「皆って誰?」
「五大貴族の坊ちゃん達と、カーティスと、聖女様ぁ」
メルの「聖女様」にとても悪意を感じる。
……キャザー・リズのこと相当嫌いなんだろうな。メルは僕よりも彼女のことを嫌っているかもしれない。
「なんの話だ?」
ヘンリがメルにそう聞いたが、彼女は首を傾げて、分からないという表情を浮かべる。
僕はデュークの方をチラッと見る。
彼はいつも何を考えているのか分からないが、きっと国王が何を言うのか大体察しているのだろう。メルの言葉に特に驚いた様子を見せない。
「いろんなことが重なってこれから忙しくなりそうだね」
僕がそう言うと、皆が愉しそうな表情を浮かべる。
皆が、今まで望んできた戦いをようやく始めることが出来ると喜んでいる。悪いけど、今回の戦いは僕らの圧勝のような気がする。




