226
「何かつかめたのか?」
「メルが手ぶらで主の前に現れると思う?」
デュークの言葉に自慢げに即答する。
僕とヘンリも情報を入手するのはそれなりに上手い方だと思っていたが、この二人を見ているとまだまだ全然だなと気付かされる。
……この二人が異次元過ぎるのかもしれないけど。
「じゃあ、まず一つ目! この国の法律で王子は聖女と結婚しなければならないけど、果たして聖女は一人なのか? ……キャザー・リズ、平民のくせに魔力がぶっとんで強く、全属性。ルックスグッド、中身バッドという、まぁ簡潔に言うと奇跡の女。聖女としか言いようがないけど、実際に奇跡を起こしているのはうちらのアリアリ! というわけで、結論を言いますと、アリアリの今までの成果を書き上げると彼女も聖女認定できるよ!! ちゃんと書類にしてきたんだから、感謝してね!」
そう言って、メルは勢いよくデュークに数枚の紙を渡す。彼はそれをざっと見通す。
そうか、聖女は別に一人とは限らない。それに、この国の一番の問題と言われている貧困村を立て直したのは、まぎれもなくアリシアだ。
そして、貴族の優越を壊し、実力主義を実現しようとしている。僕を貧困村から出した時からもう変わり始めていたんだ。
……更に、この国をより大国にしようと今も戦っている。
今思えば、キャザー・リズ、なんであいつがいるんだ?
口ばっかりで何もしていないじゃない。ただの全魔法使えるだけの能無しだ。理想論も大事だが、何も行動していない奴が言うべきじゃない。
それはここにいる皆が思っていることだろう。
「力があってもそれを使わないと意味がない」
「使い方も大事だけどな」
全部見終えたのか、デュークはさっきの紙をメルに返しながら僕にそう言った。
「全魔法使えるのがアリシアだったら良かったのに……」
「どうだろうな」
「アリはそれを望まないだろう」
僕の言葉にデュークもヘンリも納得しなかった。
「アリは全部持っているわけじゃないから、あそこまで成長したような気がするけどな。最強だけど、最初から最強じゃない。俺達と比べ物にならないぐらい努力して、あそこまで上り詰めたんだ」
「まだ強くなろうとしてるけどね」
「確かにな。俺達の立場がなくなるな」
ヘンリはそう言って笑う。
そうだ、彼女は最初から完璧じゃない。
ずっとアリシアの傍で彼女を見てきたから分かる。元々の素質があったからっていうのは勿論あるのだろうけど、それを活かす努力を物凄くしてるんだ。
……動機はいまだに意味が分からないけど。
そもそも彼女が憧れている悪女は僕からしたらただのヒーローだ。
「本当にアリが男だったら、国王の座を狙えただろうな」
「俺はアリシアが女で良かったけどな」
「可愛い妹をそんな簡単に渡さねえぞ」
「私もアリアリの話をもっとしたいのは山々なんだけど~、てか、なんなら、私がアリアリを貰いたいんだけど~、でも、その前に! 情報その二について話してもいいかなッ?」
ヘンリとデュークの会話を遮るようにメルの声が僕の耳に響く。
情報なんて手に入れようと思えば簡単に入る。情報入手には色々な手段があるけど……、デュークはメルにこんな短期間で一体どれだけの情報集めを頼んだんだろう。
そして、それをこなすメルは流石としか言いようがない。




