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魔法を解くには魔法を使うしかない。
……もしここで私が魔法を使ったなんて情報がヴィクターの耳に入れば私は終わりだわ。他国の貴族だって一瞬でバレてしまうわ。
諦めるのも賢明な判断かもしれない。
そもそも、ラヴァール国は魔法があるかないか定かではない国だったし……。本に書いていることは全て本当だとは限らないもの。
魔法を使える者は数名はいるって書かれていたけれど、日々世界が変化する中じゃ最新情報を手に入れることは難しい。
「情報屋でも雇おうかしら」
今の私にそんな財力はないけど。
それにしても、色々気になる点が多いのよね。国外追放されたウィルおじさんと共に仕事をしていた三人の人間とか、学園に現れた狼の件、そして、魔法を使える人間の割合はどのくらいなのか……。
国王様は魔法は使えないって思ってたけど、なんかヴィクターは使えそうなのよね。あくまで勘だけど。
「頭がパンクしそうだわ」
ややこし過ぎない? 複雑な迷路に迷い込んだ気分だわ。
とりあえず、この魔法を使った人間がどういう人なのか気になるわね。
でも、今は魔法を使っていい時じゃない。もう少しこの国のことを知ってからじゃないと……。
心の中で小さくため息をつく。今日のところは帰るしかなさそうね。
「おチビ! こんなところで何してんだ?」
塔を出てくるなり、誰かに声を掛けられる。
この人は……、昨日一緒に訓練をしていた兵士達の一人だわ。私が五百回の腕立て伏せを終えた瞬間、物凄い歓声を上げていた。
「僕の名前、リアです」
「そうか。俺の名前はジェイコブだ! よろしくな。それで、おチビ、この塔に入ったのか?」
私の話を少しも聞いていない。
「入りました」
「俺らには敬語じゃなくて大丈夫だぞ。……で、どうだった?」
ジェイコブは、塔の感想を興味津々で私に聞いてくる。
この塔ってもしかして、有名なの? ということは、ヴィクターは全員にここに行かせていること?
魔法を使えるか否かをここで発見するってことかしら。もしそうなら、あの時、魔法を使わないで本当に良かったわ。
……けど、あの時の私を試すような目は一体なんだったの。
ヴィクターの考えていることがいまいち分からないわ。
「ここは誰もが行かされるんだよ。……上まで行けなかっただろう?」
「行けた人間は過去にいるの?」
「俺が知っている限りでは誰もいない」
「もし、行けたらどうなる?」
「知らねえ。行けた奴を知らないからな。まぁ、でも色々な噂はあるぜ。出世できるとか、王から褒美をもらえるとかな。……まぁ、魔法を使える奴が現れない限り無理だろうけど」
「誰が魔法を使えるの?」
私の質問にジェイコブは訝し気な表情を浮かべる。
こいつ馬鹿か、と思っているのが顔に出ているわよ。
「この国に魔法を使える人間はいねえよ」
私は彼の言葉に一瞬耳を疑う。
書物にはいるって書いてあった、と言おうとしたがやめておいた。
まず今の私が本を読んで教育を受けているなんてあり得ないし……。
それに、少なくともここに国外追放された三人は何らかの魔法を使えるはず。それなのに、誰も知らないってことは……機密情報ってことかしら。
狼が学園に飛ばされたのはあれは完全に転送魔法だもの。
こういう隠されたことを暴くの大好きよ。これから面白くなりそうだわ!




