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流石に今日は疲れたわ……。
兵士の訓練があんなにハードなものだと思わなかった。しかも隊長、私に対してなかなかにスパルタなんだもの。
なんとか全部こなせたけど、ラストにほぼ全力で五キロ走れって言われた時は、ちょっと諦めそうになった。なけなしの体力で走り切ったけど、これから毎日あの訓練があると思うと……。
私が幼い頃していた鍛錬もなかなかのものだと思っていたけど、それとは比べ物にならない。やっぱり、王子直属の隊は特別なのかしら。
私はすやすやと気持ちよく眠っているライの隣に横たわる。黒くふさふさした毛並みが気持ちいい。
これなら今日はぐっすりと眠れそうだわ。
……そう言えば、昔魔法でライオンに変身しようと思っていた時期あったわね。あの時は魔法のスランプで、なかなか上手く使いこなせなかったのよね。
思い出を懐かしんでいる場合じゃないわ。昔のことを思い出して記憶に浸るのなんて死ぬ十分前で充分よ。
私はそんなことを思いながら瞼を閉じる。
「おやすみ、ライ」
小さくそう呟き、ライの隣でぐっすりと眠りについた。
チュンチュンとさえずる小鳥の音で目が覚める。目を開けると、容赦なく、朝日が目に入ってくる。目を全開に出来ないまま、私は着替えて、ライを起こさないように小屋の外に出る。
……まるで漫画みたいな朝の目覚め方ね。
訓練までまだ時間がある。
「あの塔に行きたいわね」
そう言いながらいつの間にか私は塔の方へと足を進めていた。
私の行動が王子の思い通りってところが気に食わないけど、気になるのは気になるままで終わらしたくないもの。ずっとモヤモヤしておくなんて悪女の性格に合わないわ。
「思っていたよりも遠いわね、あの塔」
一番高いから王宮の中のどこにいても分かるし、目立っているが、いざ行くとなるとそれなりに距離がある。
朝早くから使用人たちが忙しく働いている。
流石大国って言うべきなのかしら。使用人のこのテキパキとした行動と、人数の多さといったら……、いや、でも私、デューク様の家の朝の状態なんて知らないから一概には言えないわね。
私は塔を前にして足を止める。
「たっっっか」
誰もが最初に出る言葉はきっとこの言葉だと思う。あまりの高さに首を痛めそうだわ。
塔の中に入り、小さくため息をつく。
この世界に来て初めて思うわ、エレベーターが欲しいって。塔を上るのも鍛錬の一つだと思わないとやっていられないわ。
上までずっと螺旋状に階段が続いている。目的地に辿り着くには、朝からかなりの運動をしろってことだ。
「ここまで来たんだもの。上るしかないわ」
私はそう言って一歩踏み出した。
ずっと同じ光景が続き、ずっと階段を上り続けているが、全くゴールが見えない。
かなり上ったはずなのに……。
私はちらりと下を見る。地面からかなり離れていることを確認する。
進んではいるが、全く上に着く気がしないわ。まるで私を来させないよう……、来させないようにしているんだわ。
「この塔、魔法が使われているわ」
私は小さくそう呟いた。




