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……行きたいわ。ええ、行きたいわよ。
あんな煽り方ある? こっそり行っても……ばれるわよね。だって、ここは王子の家だもの。
塔に何かあるのか、誰か閉じ込めているのか、それとも……罠?
「おい! お前、俺の話を聞いてるのか!」
突然の大きな声に私はハッと我に返る。
目の前にいかつい顔がドンッと現れる。……なんとまぁ、渋い顔なのかしら。そんな眉間に皺を寄せていたら幸せ逃げていくわよ。
「さっきからぼーっとしやがって。やる気がないならママの元へ帰るんだな」
ごもっともだわ。やる気のない奴は要らないものね。一人だけ怠けた奴がいたら一気に規律が乱れるもの。
「申し訳ございませんでした!」
声を張って、私は深く頭を下げた。そうよ、私はここで頑張らないといけないのよ。必ずのし上がってやるわ。
まさか私が素直に謝るとは思っていなったのか、男は目を丸くする。周りにいた兵士達も固まっている。
「……新人、名前は?」
「リア」
「俺の名前はマリウス、リード・マリウスだ。この隊の隊長だ」
「……この隊?」
「お前、自分が所属している隊も分からずここにいるのか?」
マリウス隊長は呆れた表情をする。
いきなりヴィクターにここに放り込まれたんだもの。何の説明もなしにね。
「いいか、この隊はヴィクター王子の特別部隊だ。この隊に入りたくて世の中の兵たちは死にもの狂いで頑張っているんだ。……それをどういうわけか王子はこんな何の経験もない貧しいガキをここにぶっこんだんだ。一体何を考えているのやら」
「実力でここに残ればいいんでしょ」
私の言葉に空気が凍る。
マリウス隊長は顔を引きつらせる。……あ、怒らせてしまったみたいだわ。別に令嬢じゃない格好で人を怒らせても悪女ポイントは上がらないのに。
「いうじゃねえか、新人」
考えてみれば、隊長とこんな風に話すのって初めてかもしれない。デュルキス国では兵とはあんまり関わりがなかったものね。
「お前、今から腕立て二百回だ」
「え」
それだけ? 腕立て二百回だけでいいの? 何の罰にもなっていないわよ?
言った方がいいのかしら……。腕立て千回ぐらいの罰の方が良いよって。
「怯えているぜ」
「隊長もひでえよな、入ってきたそうそう腕立て二百回今からやらせるなんて」
「あいつは一週間ももたないに賭けるぜ」
「いや、三日だろう」
「俺は一日だと思うぜ」
次々と兵達が言葉を発する。
どんどん短くなっていくわね。どれだけ根性なしだと思われているのかしら。失礼しちゃうわ。
「失敗したら一からやり直しだ」
「おい、あんまり新人を」
「二百回でいいの?」
クリーム色の髪色をした短髪の男がマリウス隊長を止めようとしたのを私は遮る。
隊長にそんな風に言えるなんて、多分副隊長かしら。隊長より細身だけど、良い筋肉をしている。
おかしなことに、どれだけ頑張っても私は全く筋肉がつかないから羨ましいわ。
「おい、お前もあんまり煽るな」
短髪の男が私に注意する。
煽らないと回数増えないでしょ。二百回だと全くペナルティーにならないのよ。
「おもしれえじゃねえか。じゃあ、五百回、連続で腕立てしろ」
「分かった」
私はそう言って、その場に手をついて、腕立ての姿勢になる。
「あと、お前、ちゃんと敬語使え」
上からマリウス隊長の言葉が聞こえる。
「分かりました」
私はそう言って、その場で腕立てを始めた。




