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お風呂から上がり、新しい服に着替える。
……そう言えば、こっちの世界に来てから大浴場になんて入るの初めてね。
うちの家にも大浴場作ってもらえないかしら。
「あれ? ……ない」
目を隠す為の布がなくなっている。いや、布だけじゃなくてさっきまで着ていたボロボロの衣服が全て消えている。
新しい服は破けるような服じゃない。ちゃんとこの国の兵士の服をヴィクターは渡してくれた。
汚いから持っていかれたのか、ヴィクターの思惑なのか……。
後者のような気がするのよね。彼、ずっと私のこと疑っていたし、わざわざここまで連れてくるってことはよっぽど私の正体が気になったってことかしら。
五分で出てくるって言ってしまったのに、ちゃっかりお風呂に浸かっていたからかなり時間が経っている。
……あんな大きな浴場見たら誰でも入りたくなるわよ。仕方ないわ。
それに、もうヴィクターも遅いって思って帰っているはずだし。何もせずに出ても大丈夫、よね?
というか、ここから出る以外道はないんだけど。
私は顔を両手で覆いながら出来る限り半目で外に出た。
「遅い」
出た瞬間、苛立ったヴィクターの声が耳に響く。横目でちらりと壁にもたれかかった彼を見る。
やっぱりいるわよね、そうよね。まだ味方だと思えない人間を野放しにするわけないわよね。
「ご、ごめん。僕が着けてた布切れがなくなってたから、探して」
「ああ、これのことか?」
私が全部言い終える前に、ヴィクターが右手で汚い布切れをひらひらとさせる。
やっぱり貴方の仕業よね。
「早くその手、どかしたらどうだ?」
その余裕っぷりがムカつくわ。悪女は余裕がないといけないのに、今の私はかなりピンチだ。
まぁ、今の私の見た目は女とは程遠いから別にいいけど……。
「目に怪我を負っているのなら、特別に医者を呼んでやろう。見せてみろ」
「い、嫌だ」
「あ? 王子のこの俺に逆らうのか?」
ヴィクターは私に鋭い目を向ける。
……冷静に考えるのよ、私。
そもそも、私が目を隠していた理由は黄金の瞳を隠す為。
デュルキス国では、かなり珍しい目の色みたいだから、って思って隠していたけど、もしかしたらこの国ではそうじゃないかもしれない。ラヴァール国の目の色の比率なんて知らないけど、この瞳の人間が大量にいる可能性もあるわ。……なんだか、私の価値が下がってしまうわね。
「お前、ちゃんとした格好すると、様になるな」
そりゃ、まぁ、令嬢ですし?
「それに、すっげえ綺麗な骨格だし、肌も綺麗、髪も艶やか……」
ヴィクターが顔を近づけ、まじまじと私を観察する。思わず私は目を瞑ってしまう。
外見が綺麗なくらいじゃ貴族ってバレないだろうけど、彼は勘が鋭いからまずいのよね。
「やっぱ、顔見せろ」
そう言って、ヴィクターが無理やり私の手を顔からはがそうとする。
反射的に、彼の腕を蹴り、そのまま私は床に手をついてバク転で後ろに下がった。




