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「よう、王子」
ここで負けてはいけないと思い、嘲笑しながらそう言う。
「おい! 身分をわきまえろ!」
衛兵が大きな声で私に怒鳴る。
その台詞、そろそろ聞き飽きてきたわ。もっと違う台詞が出ないのかしら。「何様だ」とか無難な言葉なのにまだ一度も聞いてないわよ。
まぁ、私が聞き逃しているって場合もあるけれど。
王子の目の色が少し変わる。どうやら私に少し興味を示したみたい。
「根性はあるみたいだな」
「なかったら、とっくに脱走しているでしょ」
「……お前、本当に目が見えないのか?」
緑色の目が疑い深く私を見据える。
やっぱりそうくるわよね。私も王子の立場ならそう質問するわ。
……もし私が王子の立場なら、なんて言われたら信じるだろう。昨日の決闘でもかなり攻撃をかわしているし、絶対に私のこの包帯が演出じゃないかって疑っている人間も多そうだわ。
「答えないのか?」
「僕は本当に目が見えない。なんなら、確かめる?」
「その挑発的な態度、やめた方が身のためだぞ」
「殴られる? 蹴られる? 刺される? ここの王子はたかがガキの言葉に腹が立って、暴力を振るうんだ」
あえて怒らすようなことを一気に言ってみる。
ラヴァール国の王子の質を見させてもらおうじゃない。確かに私の言葉は相当腹が立つだろうけど、そんな言葉で本気で怒っていたらきりがないわ。
まぁ、たとえ王子が暴君じゃなくとも首を切られそうな言葉よね。
「ハッ、威勢のいいガキじゃねえか」
彼は口元をくっと上げてニヤリと笑う。
「俺は、ヴィクター・ハリストだ。この国の第二王子だ」
ということは、ロン毛の方がお兄様ってことね。
ただの偏見だけど、何故か短髪の貴方の方が弟かなって思っていた。
「僕の名前はリア」
「それだけか?」
「それ以外に言うことない」
「本当に生意気な小僧だな」
ヴィクターは席を立ち、私の方へと向かってくる。
一瞬で私の所にくるなんて、一体どんな足の長さしてるのよ。元モデルなの?
……近くに来ると分かるけど、かなり身長が高い。その上、短髪だし、なんかバスケとか得意そうね。
品定めするように、私を鋭い目でじっと見下す。
子ども相手によくそんな威圧するような目を出来るわね。そこら辺に転がっている令嬢なら、失神してしまうんじゃないかしら。……令嬢はそこら辺には転がっていないわね。
早くこの品定めの時間終わってくれないかしら、今までも色々な圧を経験してきたけれど、この圧は……苦手だわ。
彼は暫く私を見た後、私の手をガッと力強く掴んだ。
「細いが、良い筋肉しているな」
「離せよ」
ヴィクターは私を掴んでいる手にさらに力を入れて、グッと自分の方へと引き寄せる。包帯で私の目は見えていないはずなのに、がっつりと王子と目が合っているようだ。
なんか嫌な予感しかしない。心臓の音がうるさくなるのが分かる。
「……お前、女か?」
低い声が部屋に響く。




