211
ライオンと共に誰も使っていない小屋に入れられた。
ここまでたどり着くの、早すぎない? 二日三日はかかると思っていた。
国王様がいきなり席を立って、私とライオンを馬車に入れるんだもの。凄まじい勢いだったわ。
あまりの行動の速さに感心する。勿論、別々の馬車で王宮まで来た。
私はライオンの方をチラッと見る。ぐったりとその場に寝ころび、疲弊しているのが分かる。
刺した所の応急処置は包帯でぐるぐる巻きにしただけだ。
「痛みを取ってあげるわ」
このせっまい小屋には私とライオンしかいないし、一瞬だけ魔法使っても大丈夫よね。
私はパチンと指を鳴らす。
ライオンの足の傷が薄い黒いオーロラのようなもので覆われる。傷が治っていくのと同時に、彼の毛の色が段々と黒く染まっていく。
「何これ……」
私、いつから美容師みたいな技が出来るようになったの?
私の魔力が彼の体にしみ込んでいって、クスリを浄化してるからかしら。
いつの間にか、猛々しい黒いライオンが私の目の前に凛と佇んでいる。ギラリと金色の目が光る。その姿に思わず見惚れる。
な、なんてカッコいいのかしら!
これぞ悪女の隣に必要な動物だ。私は興奮した目で彼を見る。
「貴方の名前は……ライよ」
手を伸ばし、彼の毛並みを優しく撫でる。
ライオンは私の言葉に承諾したかのように、ゆっくりと頭を下げる。
……え、中身実は人間でしたってことはないわよね?
流石乙女ゲームの世界というべきかしら。ライオンが賢いわ。……もしかして、神様が最近頑張っている悪役令嬢の私に送り込んでくれたプレゼントとか。
「貴方を死なせないって国王様に言ったのは良いんだけど……まさか黒くなるなんて想像していなかったわ」
私がそう呟くと、ライは私の言葉を理解したのか、フッと元の姿に戻った。黄土色の毛をしたごく普通のライオンだ。
なんて便利な設定なのかしら。というか、私の言葉を理解しているみたいね。
「どっちが本物の姿?」
私がそう言うと、ライはまたフッと真っ黒い毛をしたライオンになる。
……そっちが本物なのね。
魔力をちょっと分け与えたら、そんな姿になるのね。闇魔法もなかなか使えるじゃない!
ライオンに乗って、サバンナを駆け巡るのとか夢だったのよね。
「なんだかさっきまで戦っていた相手とは思えないわね、私達」
本気で命を取ろうとしていたもの同士なのに、今こうして仲良く窮屈な小屋の中にいるって不思議だわ。
この世界の歴代悪女の方達でライオンと仲良くなった人間なんているのかしら。……結構いそう。
私はまだまだよね。国外追放されたぐらいで調子に乗ってたらダメだわ。
もっと上を目指さないと!