210
どうしたらいいのかしら。
私はライオンの方に目を向ける。今なら彼を殺せる。
どうするのよ、私。何を迷っているの。今なら国王様に認められて、ここを抜け出すことが出来るかもしれないのよ。目的を忘れないで。
自分をどんなに言い聞かせても、やはりライオンを殺そうという意欲が湧かない。
「あの、国王」
私は国王の方を向き、大きな声を上げる。
「僕はライオンを殺せない。けど、ライオンも僕を殺せない。だから、引き分けということでもいいでしょうか?」
周りがシンと静まり返る。
血の気が引いた顔で衛兵が私の方へ走ってくる。「お前何言ってんだ!」と叫んでいる。
彼らがあんなに怒っているということは、私は結局生き延びても支配人に半殺しにされるかもしれないわね。
「国王陛下になんて口きいてんだ、このクソガキ!」
「身の程知らずが!」
「ああ、もう、うっさいな!」
野次に対して私は声を荒げる。
王様は何も言わずにただ私を見つめている。衛兵もまさか私が怒鳴ると思わなかったのだろう。その場で固まる。
「このライオンを手当させて。僕が必ず従えてみせる。そして、仮にもし死なせてしまったら僕も死ぬ」
どうして私ここまでこのライオンに入れ込んでいるのかしら。自分でも分からないわ。
けど、ライオンを従えたら私は悪女としてさらにパワーアップするわ。そうよ、悪女がライオン一匹従えられないでどうするのよ。
「面白いな。良いぞ」
あら、素敵な声ね。……って、ええ!? 今の国王様の声?
国王様の方をじっと見つめる。楽しそうにニヤリと笑っているのが分かる。
まぁ、私達は見世物だものね。王族が楽しめればそれでいい。それが存在価値だもの。
私がいた入り口の柵の奥から支配人がいるのが視界に入る。
物凄い形相で私を睨んでいる。思わず背筋が凍る。
……子ども相手になんて表情してるのよ。まぁ、確かに私に無茶苦茶にされているものね。
「お前、名前はなんていうんだ?」
「リア」
「リアか、気に入った。俺の元へ来い」
観衆たちが一気に色々な声を上げる。「陛下考え直してください」と部下が言った声も耳に響く。
……やったわ。国王に近付けるチャンスがついに到来!
でも、彼の元へ行くっていっても、護衛なんて絶対に就かせていただけないだろうし……。
滅茶苦茶こき使われるのかしら。それに、住む場所も馬小屋なんでしょうね。
「あ、っと、ライオンも一緒だよな?」
「勿論だ」
有難うございますって言いそうになったわ。私は今、礼儀を知らない子どもなのよ。
ついつい設定を忘れそうになるわ。
「今すぐ出る準備をしろ」
「いつでも出れる」
「持ち物はないのか?」
「ここにいたガキが何か持ってるとでも?」
「おい! 言葉遣いに気をつけろ!」
「いや、いい。マナーはあいつらに叩き込ませる」
彼の側にいた衛兵が大きな声で私に怒鳴ったのを、国王は余裕のある顔で止める。