208 十五歳 ウィリアムズ家長女 アリシア
向こうがどんな動きをしてくるのか、観察する。
もっと、勢いよく飛び出してくるものかと思ったけど、案外じりじりと私の方へ歩いてくる。
私も魔法でライオンになることなんて朝飯前だから、本来ならライオン対ライオンが可能だったのに……。
ライオンが一歩ずつ私に近付いてくると同時に段々観衆の声が小さくなってくる。より緊張感が漂う。
全く作戦を考えてなかったから、これからどうしようかしら。向こうが先に動いてくれないと、私が動けないのよね。下手に動くと絶対にやられるもの。
「もっと狂暴だと思ってたけど、案外大人しいのね」
といった瞬間だった。
ライオンは目の色を変えて、いきなり私の方へ全力で走ってくる。観衆も一気に騒がしくなる。
「前言撤回」
思わず私の顔が引きつる。
ライオンが突進してくる中、隙を見つけるのよ。ここで逃げたら殺される。ライオンの方が圧倒的に足が速い。
「あの小僧動かねえぞ」
「ライオンの気配にも気付いていないんじゃないか」
「悪いのは目だけじゃないのかよ」
うるさいわね、こっちは集中してるの。
ライオンが私に襲い掛かろうとした瞬間、ライオンの下に滑り込んだ。剣を取ろうと腰に手を伸ばしたが、ライオンの反応が思ったより早く、すぐに前足を私の方へ伸ばす。
もっと鈍いライオンだったら良かったのに!
咄嗟に反応して、そのまま彼の尻尾の方まで滑った。
まさか私がそんな反応を出来るとは思ってなかったのだろう。一瞬で会場が静まり返る。全身で沢山の視線を感じる。
……こんなことで驚かないでよ。まだ一撃も与えていないのに。
今から私は彼を倒さなきゃならないのよ。
はぁ、この見た目で成果を得ても、悪女として認識はしてもらえないのが残念だわ。
そんなことを呑気に考えていると、ライオンは容赦なく次の攻撃をしてくる。
大きく後方宙返りをして、上手く攻撃をかわした。「嘘だろ」という声が耳に響く。
七歳からずっと筋トレや剣術の練習に励んできたのよ。これぐらい当たり前よ。というか、真の悪女ならこれくらい出来なくてどうするのよ。
ちらりと国王様を一瞥した。
あら、目を見開いて私を見て頂けるなんて光栄だわ。ここで彼に気に入ってもらえれば、ラヴァール国の政治情勢を知る機会が一気に増えるはず。
「がんばるのよ、私」
自分にそう言い聞かせて、私は腰から剣を抜いた。それと同時にライオンの目がギラッと光る。
彼は私を威嚇するような声を上げる。
ライオンの咆哮をこんな近くで聞くなんて貴重な体験ね。これからは自慢するわ。
ギュッと剣を持った手に力を入れる。ライオンが凄まじい速さで向かってくるのを上手くかわしていく。かみ殺されないように目で彼の動きを必死に追う。
「あいつ本当に目が見えてないのか!?」
「あの小僧、ライオンよりも動きが速いぜ」
ああ、もう! これだとずっと攻撃を避けているばかりで、反撃に出られないわ。
読んでいただき本当に有難うございます。
感想も本当に嬉しく、にやけながらいつも読ませていただいております。
この度、『歴史に残る悪女になるぞ』コミカライズ化いたしました!
というお知らせです。
これからもよろしくお願い致します。
 




