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「父は間違いなく気付いてるな」
デュークはさらっとそう言った。
……は?
あまりにも驚愕の事実に言葉が出ない。国王が知っているのに、何故何も言わないんだ。
「言っただろ、父は馬鹿じゃない」
「放任主義なの? ……いやいや、でも流石に貴族の令嬢を国外追放するのは止めるだろ」
「俺に考えがあると思って何も言わないんだろう」
「出来過ぎる息子を持つと、親も大変だね」
「俺はまだ何も実績を残してない」
デュークは苦笑する。……どれだけ優秀でも実際に行動しないと意味ないってことか。
彼の瞳が太陽の光に照らされて、青く光る。晴れた青空の目に思わず見惚れる。こんな目でずっと見られたら男女問わず魅了されてしまいそうだ。
黄金の目をしたアリシアの瞳も本当に綺麗だ。貴族は目が美しいと決まっているのか?
アリシアは僕の灰色の目を知的だと褒めてくれたけど、僕は自分の目を好きだと思ったことがない。
「そういや、デュークの目も特別なの?」
「俺の目も、ってどういうことだ?」
質問の意図が通じなかったのか、デュークは眉をひそめる。
「じっちゃん曰く、アリシアの目は特別らしい。世界が輝いて見えるとかじゃなくて……」
「速読か?」
「それもあるけど、とんでもなく速いものがスローモーションに見えたり、かなり遠くのものが見えたりするみたい」
なんて説明したらいいのか適切な言葉が見つからない。そもそも人の目を僕が説明するのも少し変な話だけど。
デュークは暫く考えた後、口を開いた。
「俺は普通だ。一瞬見たら大体のことは把握出来たりするけど、アリシア程じゃない」
それは充分特別な目だ。デュークにとっての普通は凡人にとって特別だ。
「昔、速読している姿を見たことはあるが、あれは凄かったな。あ、でも鳥肌が立ったのは林檎事件だな」
「なにそれ?」
アリシアは自分の幼い頃の話をほとんどしないから、彼女が一体どんな幼少期を過ごしていたのか全く分からない。
初めて会った時から、魔法が使えて、それにあの剣術だ。相当な努力をしてきたはずだ。なのに、彼女に一度聞いた時、小さい時の自分は手に負えない我儘女だった、と言っていた。
……謙遜とは思えないが、それが本当だったとも思えない。
「アルバートの腰から剣を抜き取り、上から落ちてきた林檎をスパッと真っ二つに切った事件」
「……はぁ!?」
思わず大きな声を出してしまった。
なんだそれ、そんな超人の技を僕と会う前から出来ていたのか。ということは、かなり幼いはず。
「それって、何歳の時?」
「七歳? ぐらいだったかな」
「信じられないんだけど。七歳の女の子が剣を持ち上げることが出来るなんて……」
「持ち上げるだけじゃなくて、彼女はちゃんと剣として使ったからな」
そう言って、得意気にデュークは笑った。
悪女になりたいというのを志してそこまでのことが出来るものなのか。全身がブルッと震える。
「一体何者なんだ」
僕は彼女のその凄まじい才能に無意識に口の端が上った。




