203
私が姿を現した途端、一気に会場が静まり返った。
なんて団結力なの。誰か一人ぐらい騒がしい人がいても良いじゃない。まぁ、まさかこんな子どもが出てくるなんて誰一人思わなかったのでしょうけど。それも、皆からしたら、私は目が見えない少年だし。
固まるのも無理ない。
ぐるりと会場を見渡す。この国の人たちは白人系なのね。デューク様のお母様はどこの国の方なのかしら。
……発見。なんて目立つのかしら。
観客席の真ん中のあたりに屋根がついて、豪華な椅子と豪華な食べ物が並んでいる場所がある。
遠くからじゃわかりにくいけれど、あれは絶対に国王様とお妃様だわ。そしてその王子らしき人物が二人、宰相、衛兵。なんてオーラを放っているのよ。
ラヴァール国、確かじゃないけど、この国には確か魔法がない。……ということは、普通の人間が国を治めているってことよね。
…………そんなことある? 運営は、私の国にだけ力を入れたってこと?
良い乙女ゲームなんだけど、ところどころ適当よね。それとも何か意図があるのかしら。ああ、でも、この国で魔法が使えないから、ヒロインが前に狼にさらわれそうになったんだっけ?
……ああ、もう話が複雑すぎるわ。
私は、じっと右目に意識を集中させて彼らを観察した。
国王様の容姿は少し明るい金髪に、明るい黄緑色の瞳をしていらっしゃる。一方のお妃様のご容姿は暗いグレー色の髪に、国王様同様黄緑色の瞳。王子様達は、白っぽい明るい金髪に、一人はロン毛、一人は短髪。ある意味バランスが取れている。瞳の色はどちらも両親譲りの明るい緑色の瞳。……こんなこと言ったら失礼だけど、確かに魔法は使えなさそうだわ。
勿論いうまでもなく、皆超がつくほどの美形だ。この世界では王族は皆イケメンって法律か何かで決まっているのかしら。お金があるうえに容姿も完璧って……、羨ましいこと限りなしだわ。
「そんなガキで大丈夫かよ!」
「もっと骨のあるやつにしろよ! そんな小僧一瞬で食われちまうぞ!」
骨があるかどうかは戦ってみないと分からないでしょ。
誰かが叫び始めると、どんどんそれに便乗するように皆が次々と声を上げる。さっきの静まりが嘘のように一気に騒がしくなり始める。
誰か耳栓を持ってきて欲しいわ。このままだと鼓膜が破れるわよ。
「奥に引っ込んでろよ」
「ガキが出る場所じゃないぜ!」
なんだか、その野次も優しさに感じてしまうわ。私のことを心配してくれているのかしら?
「迷子になっちゃったのかな~?」
その言葉でどっと会場に笑いが起こる。
心配してくれているなんて考えた私が馬鹿だったわね。私は彼らにとって娯楽でしかない。その娯楽が一瞬で終わるなんて彼らは嫌なんでしょうね。
安心して、楽しませてあげるわ。
「ライオンのお出ましだ!」
誰かの声が私の耳に響いた。それと同時に「おおおおおお!」という歓声が一気に広がる。
ライオンの柵がゆっくりと開く。それと同時に緊張感が増すのが分かる。
柵の奥からギロッと野性的な瞳が私を睨んでいる。本当に獲物を捕らえるだけにここに来たような瞳をしている。
「ちびるんじゃねえぞ~」
誰かがそう叫んだが、私はそんなことに構わずただ目の前のライオンに集中した。




