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小さな窓から入る微かな太陽の光で私は目が覚めた。ゆっくりと瞼を開ける。
……もう、この布を巻いた状態での視界にも慣れた。別に違和感ないもの。もしかしたら、悪役令嬢っていうのは適応能力が高めに設定されているのかもしれないわ。国外追放とかなりがちだし。
「魔法が使えたら、自分もライオンになって太刀打ちするのに」
誰にも聞こえないようにボソッと呟く。
まぁ、出来ないことを考えても時間の無駄よね。今私が出来ることは、筋トレぐらいかしら。ストレッチして、出来るだけ体を軽くして思うままに動かせるようにしておかないと。
その場で腕立て伏せを始める。
それにしても、私、本当に成長したわよね。記憶が戻ったばかりの私の筋力なんて赤ちゃん並だったもの。やっぱり継続って大事ね。身に染みるわ。
歴史に残る悪女になろうと思ったら結構道は険しいものなのね。だからこそ、心が疼くのだけれど。
「おい、朝飯だ」
筋トレをしていると、あの支配人が自ら食事を持ってきた。
どうして彼がわざわざ私に朝食を届けに来たのかしら。普通、部下に任せるわよね……。私が今日の見世物だから?
大きなカギで扉を開け、ギーッと音を立てる。
この柵……、脆そうだし、壊そうと思えば自力で壊せた気がしてきたわ。もう手遅れだけど。
男は私の前にパンとスープと小さな肉が乗ったお盆を置く。
これが少し豪華になった食事……。そんなに期待していなかったけれど、王族が見に来る闘技場ならもっといいものを出せるんじゃないかって思ってしまうわ。……国外追放されたような人間はろくなものを食べたことがないと思われているってことかしら。
「肉なんて初めて見るんじゃないのか?」
やっぱりそう思われているみたいね。
私は無視してご飯に手を伸ばす。その様子を見て、彼はハッと鼻で笑った。「飯に飢えているガキ」と思われたに違いない。
そんなに油断していると、簡単に私にやられるわよ。
「こんな細くてちっさい子供にライオンの相手が務まるわけがない」
「そうかな」
あえて乱暴にパンをかじる。行儀を知らない子供を演じないとね。
「喧嘩したことあるのか?」
「ねぇ、僕は国外追放されているんだよ」
最後の一口を口に運び、そのままペロッと舌で指を舐めた。私は男を挑発するように笑みを浮かべる。
「愚問だったか。少しは楽しませてくれよ。まぁ、一瞬でお前がライオンに引きちぎられるって絵面も悪くないがな」
「逆だろ。僕がライオンを引きちぎる」
「一体どこからそんな自信が出てくるのやら。……ああ、自分に言い聞かせているのか」
彼は眼鏡をキラリと光らせながら私をじっと見下ろす。
あら、貴方も馬鹿じゃないのね。二割ぐらいは自分に言い聞かせているわ。私なら出来るって。けど、残りの八割は本当に私なら出来るような気がしているのよね。
今まで培ってきた全てを発揮して見せるわ。
「まぁ、どうでもいいが。……決闘は昼だ。それまでに国王が来る」
それだけ言い残して、男は牢から出て行った。




