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「僕は負けない」
ここは虚勢だと思われても良いから強く出ないと。
「ほう、口だけは達者だな」
男は顎に手を置いて、少し私に興味の眼差しを向けた。まるで品定めされているような気分だわ。
「……そういや、お前は目が見えないくせにちゃんと歩けていたな。どうしてだ?」
「慣れだよ。気配を感じ取って歩けるんだ」
「それは面白いな。これはなかなか良い見世物になるかもしれない」
そうこなくっちゃ! 私は希望を膨らませて次に発せられる男の言葉を待つ。
「よし、あいつと交代だ」
少し考えた後、男が私の方を見て口を開いた。
やった! 交渉成立したわ! まぁ、交渉というほどのものでもないけれど。
「おい、ちょっと待て。まだ幼い子供だぞ」
失礼ね、私はもう十五歳よ。その割には少し身長が低いけれど……。
「こいつが志願してきたんだ。お前は黙っていろ」
低く重い言葉で男は彼を威圧する。
私なら大丈夫よ。むしろ今、最高に明日が楽しみだわ。だって、生まれて初めて闘技場の見世物になんてなるんだもの。こんな体験一生のうちに出来ない人の方が多い。心が躍らないわけがないわ。
「支配人、本当によろしいのですか? もし、こいつがすぐに死んだらどうするんですか?」
「その時は、他の奴をぶち込めばいい」
「ですが、戦いの前日は本人に伝えなければ」
「いいか、こういう世界は予期しない死が突然にやってくることなんてざらにあるんだ」
衛兵の言葉を抑えるように男は強い口調でそう言った。
「分かりました。この少年を違う牢へ移動させますか?」
「ああ。あのフィルとかいう男はそのままにしておけ。明日、こいつが死んだら次にあいつに出場してもらう」
「はい」
衛兵はそう言って、鍵を取り出し、牢を開ける。「出ろ」という言葉で私はゆっくり牢から足を出した。背中でミルとルビーの視線と坊主の男の殺気を感じながら足を進める。
「明日、楽しみにしてるぞ」
私の耳元で男は小さく囁き、ニヤッと不気味な笑みを浮かべた。
その気持ち悪さに悪寒が走った。……彼は私のズタズタに負ける様子を見たいだけだ。その時、私はそう直感的に理解した。
調子に乗った子どもを見せしめにしてやるってところかしら……。
正直、ライオンに対して恐怖心を抱いていないわけじゃない。勿論怖い。体の震えを抑えるのに精一杯だ。飢えたライオンと見たこともないし、戦ったこともない。
それに、魔法を簡単に使えば貴族とバレてしまうから魔法は使えない。
……けど、結局いつか戦わなければならないもの。今、ここで逃げても何も解決しないわ。
この緊張感と恐怖心を強さに変えてやるわよ。




