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「そういや、どっかの令嬢が国外追放されるような話あったけど、どうなったんだろうな」
前にいた二人の御者の内の一人がそう呟いた。
……こんなに一瞬で噂って広まるものなのね。まぁ、そりゃ一国の大ニュースだものね。
私、本当に無事にデュルキス国に帰ることが出来るのかしら。
「ああ、あの五大貴族のお嬢様の話か。どうせ激甘王子がどうにかして国に留めさせとくんじゃないのか?」
残念ながら私はここにいるよ。
「けど、檻に入って城に行く様子を見たっていう奴がいたから、今回は相当罪が重そうだぜ」
「どうせ国外追放になっても向こうの城で良い暮らしできるんだろう」
「そうだろうな~、貴族様は罪を犯してもほとんど隠蔽するからな。全く良い身分だぜ」
う~ん、皆と変わらず牢に閉じ込められるか、労働するか、のどちらかだと思うけれど……。国外追放された人間だもの。
勿論、私は奴隷になる気なんてさらさらないわよ。目的はラヴァール国の真髄を知る為に行くこと。その為には、城に忍び込まなければ……。けど、どうやって?
「一体誰が令嬢を運ぶんだろうな」
「シーカー家の直属の御者とかだろう。犯罪者とはいえ、俺らが貴族の令嬢を運べるわけねえよ」
あら、今の瞬間を光栄に思うことね。嬉しいことに貴方達は今、五大貴族の令嬢を運んでいるのよ。
そんな話、誰も信じないだろうけど。
「僕達ってどこに連れていかれるの?」
「知らねえな~。良い所ではないっていうのは確かだな」
フィルが少し明るい口調で答えてくれた。
「……城から遠くない所だと良いんだけど」
「は?」
「いや、何でもない」
思わず声にボソッと出してしまった。
とりあえず、今は体力温存しておこう。私はゆっくりと瞼を閉じた。
「おい、着いたぞ。起きろ小僧」
荒々しいその言葉に私はゆっくりと目を開いた。
「ぐっすり寝ていたな」
そう言ってニカッと笑うフィルが視界に入る。
ぼんやりとしたまま、私は立ち上がり、檻から出る。
ここどこ? ラヴァール国ってことは分かるんだけど、全くラヴァール国らしいものがないのよね。
国旗もなけりゃ、ラヴァール人らしい人もいないし……。
レンガの壁に囲まれた暗い場所に私達は全員降ろされた。
……何、この異臭。強烈な酸っぱく、鼻にツンとくる匂いに私は思わず顔をしかめた。
貧困村とはまた違う臭さ……。とにかく貴族が立ち入ることはないであろう場所なのは確かね。
「ここはどこだ?」
ミルが奥さんのルビーを抱えながら辺りを見渡す。怖いものはもうないはずなのに、彼の様子は怯えて見えた。
「ようこそ、ラヴァール国へ」
低く、不気味な声が奥から聞こえた。




