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「ここでじっとしてろ」
この部屋の管理人は嫌悪感丸出しで私にそう言った。
小さなコンクリートの何もない部屋で私はポツンと出来るだけ目立たぬよう座った。
服を着替えて良かったわ。見事に馴染めているもの。それにしても、一体彼らは何をしたのかしら。国外追放になるくらいだから、よっぽどのことをしたのよね。……貴族を殺したとか?
私は悟られないように彼らを観察した。
皆、これから先のことに焦っている様子はなく、希望を失くした目をしている。特に、夫婦だと思われる女一人と男一人は完全に絶望感に浸っている。死んだ目で壁にもたれている。
希望で胸がいっぱいの私と正反対ね。ああ、本当に何をしたのか気になるわ!
観察で手に入れられる情報ってたかがしれている。やっぱり本人の口から直接話を聞きたい。その方が効率も良いのに……。
「坊やは何をしたんだい」
図太い声で一人の肥満体型の男性が私にそう尋ねた。
あら、私が聞こうと思っていたことを逆に聞かれるとは……。
国外追放された罪としては表上、王子の記憶を消した罪、リズさんを虐めていた罪、殺人罪ってところかしら。……最後だけ言おう。
「……殺人罪」
出来るだけ低い声を作り、ぼそりと呟いた。
低い声を作るのって難しい。でも、そのうちコツを掴んだら、慣れるはずよね。
「ほう、君みたいな少年が殺人罪か」
男は何故か感心するような様子を見せた。
殺人という言葉に反応したのか、残りの三人も少しだけ私に興味を持ったように思えた。
自分のことで精一杯なはずなのに、やはり私みたいなまだ子供が国外追放されるのには興味があるのだろう。
ちゃんと答えたから、私も彼に質問しても良いわよね? いっそのこと、彼ら全員に質問してもいいわよね?
「皆は、どんな罪で捕まったの?」
私の質問に皆が一瞬固まり、それから少し躊躇した様子で肥満体型の男が口を開いた。
「俺も殺人罪さ」
「僕達もそうだ」
続いて、夫婦の内の男性の方もそう口にした。
残ったもう一人の坊主の男は決して何も言わなさそうなオーラを放っている。彼だけが、何故かこの中で浮いているような気がする。
……無口で、長身で、体には刃物で出来たであろうかすり傷が多くみられる。殺し屋か何かかかしら。
「この国でも殺しの罪はそんなに重くないはずなんだけどな」
肥満体型の男が苦笑する。
確かにそうよ、殺人罪はもはや罪に問われない。私が盗賊を殺した時も問題にはならなかった。……なら何故彼らが国外追放されるの?
このままだと、この国に不信感と疑問だけを残してラヴァール国へ行くことになりそうだわ。
「坊や、名前は?」
「……リア」
少し考えてから答えた。男の子の名前を一瞬で思いつくことが出来ず、自分の愛称である「アリ」を逆さにして答えた。
「リアか。俺の名前はフィルだ」
「僕はミル、そして、妻のルビーだ」
ルビーはミルの言葉に対してもほとんど反応せず、ただ壁にもたれかかり、気力を少しも感じさせなかった。
私はちらりと坊主の男の方に目を向けたが、彼らも彼の名前を知らないし、一言も会話をしたことのない様子だった。
「時間だ。外に出ろ」
自己紹介を終えたところで管理人が部屋の扉を開けた。




