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ここって検問所みたいな所よね。
私は衛兵に連れられながら辺りを見渡した。立派な建物ね。ここにお金を使う余裕があるのならもっと直すべき所があるでしょ。
半分呆れながら建物の中を観察した。一般人は一人もいないようだ。大きい建物のわりに働いている人数が少ない。
当たり前よね。だって、検問所なんてほとんど誰も利用しないもの。
「汚らしい子だな」
「貧困村出身なんじゃないか」
「まだ小さいのに可哀そうだな」
「あんまりじろじろ見ない方が良いぜ」
周りの声が容赦なく私の耳に響く。
こんなにも遠慮なくガン見しておいて、見ない方がいいなんて失礼しちゃう。それに可哀想かどうかは私が決める。部外者の貴方達が決めることじゃないわよ。
「国外追放か?」
「一体あの少年何をしたんだ?」
「両目見えない上に、みすぼらしくて、さらに国外追放なんて、人生終わりだな」
「余程のことがない限り国外追放なんてならないぞ」
「そういや、ウィリアムズ家の令嬢も捕まったらしいな」
「彼女はすぐに釈放されるだろう。だって、五大貴族だぜ? 金でなんとか出来るだろう」
「真相を隠すのなんて得意業だもんな」
そう言ってゲラゲラと笑う声が聞こえる。
嫌味を笑いに変えるなんて感心だわ。けど、やっぱりある層には貴族は汚いと思われているのね……。
「おい坊や~、おめえ一体何したんだよ」
興味本位で茶化すようにして私に声を掛けてくる者もいた。
「無視してください」
答えるかどうか少し迷っていると、衛兵が即座に私に囁いた。
私は彼の言った通り、彼らの言葉に一切反応しないことを徹底し、そのままある部屋に連れていかれた。
「なにこれ……」
「ラヴァール国へ入国する犯罪者が集まる部屋です」
そんな説明されなくても見たら分かるわよ。
私が言いたいのは、私だけが国外追放されるわけじゃないことに驚いているのよ。
国外追放ってこんな日常茶飯事的なものなの? ……私の調査が浅すぎた? そんなはずない。かなり念入りに調べたはず。
衛兵に聞きたいことはあったが、今ここで彼を問い詰めても意味がないし、何より彼もこの真相について知っているか分からない。
私とその他四人、合計五人が今日国外追放される。四人を少ないととるか、多いととるかはその人次第だけれど……。貴族の国外追放が珍しいだけでなく、平民の国外追放も珍しいはずよね?
女性が一人、男性が三人、年齢は四人とも三十代ぐらいかしら。着ているモノは今の私同様ボロ衣だ。
「早く中に入れ」
私はその部屋を管理している男に無理やり押された。
レディに対しての扱いがなっていないわよ、って少し前の私なら言っていたのだろうな、と思いながら私は黙って部屋に入った。
「ご苦労様でした」
男は衛兵に向かって深く頭を下げてそう言った。
やっぱり、王宮に仕えている衛兵は一目を置かれる存在なのね。衛兵は何か言いたげな表情を私の方に向けた。
絶対に何も言わないでよね。ここまで来て、ぶち壊さないでよ。
衛兵に向かって私は必死に念を送り続けた。残念なことに、今、私の目は塞がっているから、目で合図は出来ない。
私の気を読み取ってくれたのか、衛兵は少し躊躇いながらも「元気でな」と言い、その場を離れた。彼のその言葉は私の無事を心から願っているように聞こえた。
やはりウィルおじさんの言っていた通り、声のトーンや抑揚というものの大切さがよく分かる。
……とうとう私は本当に一人になったのね。誰一人味方がいない世界に入り込むのなんて生まれて初めてじゃないかしら。
この状況を楽しめる私ってやっぱり悪女よね……。無意識に口の端が上がっていた。




