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「そろそろ時間だ」
衛兵の一人が低い声でアリシアの腕を掴みながらそう言った。
アリシアは満足気に笑みを浮かべている。まるで国外追放されることに酔いしれているような笑みだ。
逆に、最後まで悪女という役を貫き通そうとしているように見える。
リズはアリシアのことを顔を歪めて見ていた。誰もその表情に気付いていなかったが、僕は確かに見た。あれは、妬み嫉みが露になった瞬間だ。
皆がアリシアのことを想っているのが許せないのだろう。……特にデュークが。
「デュークはどうしてここに来ないんだろうな」
ヘンリが眉をひそめる。
デュークがアリシアの前に現れない理由は彼が国外追放を命じたのだから、見送るなんてことは出来ないのだろう。
そして、皆、デュークが記憶喪失だと思っている。
……最愛の女との別れに立ち会えないなんて結構きついな。アリシアのことを思ってここまで行動するのか……。彼の我慢強さは凄い。
「さて、長居は無用。では、皆様、これで本当にさようならですね」
口角を上げて、ニッコリと微笑む彼女の強さに僕は釘付けになった。
片目を犠牲にして、周りから罵られても自分の信念だけを貫き通して、文句ひとつ言わない彼女の強さをこれほど愛おしく思ったことがない。
「アリシア……僕は……寂しい。だから……、だから……、行かないで欲しい」
俯きながら思わず吐露してしまった。僕のか細い声に皆が固まり、静寂に包みこまれた。
こんなこと言うつもりなんてなかった。アリシアが困ることは言っちゃいけない。それなのに……。
「まだ可愛げがあって良かったわ」
アリシアはそっと衛兵から腕を払い、僕の元へ駆け寄ってきた。そしてギュッと力強く抱きしめてくれた。
その瞬間、僕は自分の目に涙が溜まっていることに気付いた。
まさか、あの僕が、泣くなんて……。
自分で自分の涙に驚いた。もう二度と涙を流す事なんてないと思っていた。涙がこぼれ落ちないように必死に眉間に皺を寄せる。
「ア、リ……」
「ジルは私の最高の宝物よ」
耳元でそう言った彼女の言葉に僕はさらに胸が締め付けられた。
あの貧困村で落ちぶれて汚かった僕を宝物だと言って抱きしめてくれる令嬢に僕は何もしてあげられなかった。
アリシアの役に立とうと追い付こうと思って頑張ってきたけど、いつも彼女は僕の数歩先を進んでいるんだ。
「ジル、いつも助けてくれて有難う」
そう言って、彼女はそっと僕から腕を離した。彼女はさっと馬車の中に入った。馬車の中は外からは誰にも見れないようになっていた。
さばさばとしたその別れ方はアリシアらしいなと思い、思わずフッと笑ってしまった。
どうか無事で。僕はそれだけを願って、アリシアの乗った馬車を見送った。
皆、何も言わずそれぞれに思いを抱きながら段々小さくなっていく馬車を見つめていた。
明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします!
長い間投稿出来ておらず、本当に申し訳ございません。
まばらになるかもしれませんがこれからまた小説投稿を再開致します。
待って下さった読者の皆様、本当に有難う御座います!
また、感想も本当に嬉しいことこの上ないです!
これからのアリシア国外追放編を楽しんで頂けたら幸いです♡
これからも宜しくお願い致します。
大木戸いずみ