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「相変わらず無駄に広いわね」
私の第一声にメイドが眉をひそめた。けなされたのだと思ったのだろう。確かに、王城をけなすなんて大問題だ。でも、今の私は罪人! まぁ、正確には容疑者ってところなんだろうけど……。だから、割と何を言っても許されるのではないかと思っている。まぁ、そんな事はひとまずおいておいて、私、これから一体どうなるのかしら。裁判? この国に裁判なんてあったかしら。……あったわね。バッドエンドでアリシアは裁判にかけられて有罪にさせられるんだったわ。リズさんを虐めた罪だったかしら、何かとにかく大変な事をしたのよ、忘れてしまったけれど。
……ねぇ、もしかして、これって私の裁判が予定より早くなったってこと?
「ウィリアムズ・アリシア容疑者、こちらです」
眉間に皺を寄せて、お堅そうな男性が私に向かってそう言った。
……確かに今の状況で様付けされる方がおかしいわよね。デューク様の衛兵は私の事をアリシア様って言うけれど、それを国王陛下の御前で言ってしまったら罪に問われるんじゃないかしら。
「お入りください」
お堅い彼は大きな扉を力強く開けた。
……あら、ここは初めて来る場所だわ。考え事をしながら歩いていたから、どうやってここまで来たのか思い出せないけれど、それにしても大きな厳格な造りの扉ね。彫られている模様は……鷹かしら?
なかなかセンスのいい扉のデザインだわ。是非この扉を作った人にお会いしてみたいわね。
「早くお入り下さい」
彼は私を鋭い眼光で見つめながら、きつめの口調で言った。
……しょうがないじゃない。あの暑さの中、何にも口にしていないのよ? それに、今は糖分不足で本当に頭の回転が鈍いの。だから、あなたの言葉を理解するのにも時間がかかるのよ。私はそんな文句を心の中で呟きながら、厳重な空気の中に足を踏み込んだ。
「あら?」
驚きのあまりつい声が出てしまった。
部屋の中には、今まで見た事のない人達が数十人いた。デューク様は奥の方で私をギロリと睨んでいる。デューク様に睨まれるなんてなんだか新鮮だわ。国王様とお父様達は見当たらない。
この妙な集まりはデューク様独断で開かれたってこと? ……デューク様の決断に国王様が同意したってこと?
「俺はまだお前を犯人と決めつけたわけではない」
「え?」
「お前の意見が聞きたい」
「この方たちは?」
「町の者達だ」
「彼らと知り合い……なのですか?」
「違う」
「よく町の者達をお城に招き入れましたわね」
私の言葉に気を悪くしたのか、デューク様は眉間に皺を寄せた。
「どういうことだ?」
「よく分からない者達ですよ? 何か盗まれるとか思わないのですか?」
「黙れ。国民を信じない王子などいないだろ。それにこの城は厳しく警備されている」
……そうだったわ。デューク様はどんなに頑張ってもこの城から抜け出せなかったって言っていたわ。確かにお城の警備だもの。簡単に抜け出せるわけないわね。
「申し訳ございません。失言でした」
「まあいい。とりあえず今からお前にいくつか質問する」
質問? 尋問じゃなくて?
「俺からじゃなくて、彼らからしてもらう」
デューク様は低い声でそう言った。
町の人達から私に質問? 一体何の質問をするの……。心臓の鼓動が少し速くなるのを感じた。貴族の人達の前で何か話すよりも町の人達の前で話す方が緊張するわ。
「分かりましたわ。なんでも正直に答えますわ」
私はデューク様と町の人達の方を目を逸らさずに真っ直ぐ見ながらそう答えた。