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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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「……アリシア」

 デューク様は私をじっと見ながら、そう呟いた。

「誰かがデュークの記憶を消し、ウッ……」

 ジルが最後まで言う前に片手でジルの口を覆った。本人の前で記憶を消されたなんて言ったら混乱するに決まっているわ。

「お前は俺とどんな関係なんだ?」

「……分かりませんわ」

「どうしてお前は俺の事を知っているんだ?」

「デューク様は有名ですもの」

 私はそう言って軽く微笑んだ。

 もし、このまま私の事をずっと思い出さなかったら、普通の乙女ゲームの展開になるわよね。リズさんとデューク様が結ばれる……。

「アリシアと言ったな」

「はい」

「目を怪我しているのか?」

 デューク様は私の眼帯を怪訝そうに見ながらそう言った。

 ……また説明しないといけないのかしら。

「怪我というより、目がないのですわ」

 私は口角を高く上げ、声の調子をいつもより低くしてそう言った。私の言葉にデューク様は一瞬固まった。顔は一緒なのに、いつものデューク様とは別人だわ。

 窓から差し込む光でデューク様の瞳が輝いているが、いつもより少し瞳の色が深い。どこか光を失ったような目だわ。

「何があったんだ?」

「……人を殺した罰ですわ」

「「え」」

 ヘンリお兄様とジルの声が重なった。驚いた表情で私を見ている。

 記憶のないデューク様に私が悪女だって事を認識させないといけないもの。こんなチャンス滅多に来ないわ。それに、実際、誘拐された時に人を殺した事はあるわ……。

「人を殺したのか?」

 眉間に沢山の皺を寄せながらデューク様はそう聞いた。確かに、騎士でもない女の子が人を殺すなんて普通じゃないものね。

「ええ、何か問題でも?」

 私は少し微笑み、明るい口調で首を傾げてそう言った。これぞ悪女だわ!

「軽いな」

 私の言葉が気に障ったみたい……。人を殺したなんて自慢できる事じゃないけど、あの状況ではしょうがなかった。

「俺はもう行く」

 そう言って、デューク様は私達に背を向けて歩いて行った。

 ……無事に悪女の印象を与えられたかしら。私はそんな事を思いながらデューク様の背中を見送った。

 どこまでも長く、だだっ広い廊下にデューク様の足音だけが響いた。

「誰の仕業だろうね」

「犯人を捜さないとな」

「私は結構嫌われているから、沢山の候補者が上がるわよ」

 犯人を探し出すのはかなり大変だわ。全く見当がつかない。

「今日の朝のデュークはアリシアに甘い男だったよね」

「怒らせてしまったけど……」

「それから、エマに会って、マリカに会って、カーティスとフィンに会って」

「どういう経緯でそいつらに会う事になったのか気になるが、今は聞かない方がいいな」

「……誰かからの私に対する挑戦状かしら」

「挑戦状だとしても、どうしてそんなににやけているの?」

「嬉しいに決まっているでしょ。悪女はね、誰かに喧嘩を売られて一人前よ」

「なんだかやっぱり変だけど……、アリシアが良いならそれでいいか」

 ジルは少し顔をしかめながら、私を説得するのを諦めたようにそう言った。ヘンリお兄様もジルと同じ表情をしている。

 ……誰からの挑戦状か分からない限り、喧嘩を買う事は出来ないわ。私は探偵じゃないもの、犯人を見つけ出すのは不可能よね。ああ、どうしたらいいのかしら。

「とりあえず、僕たちの味方を集めて話し合おうよ」

「人に頼るの? これは私の問題よ」

「たまには、妥協も必要だよ。特に今回の事件は面倒くさそうだ」

 ジルは真剣な表情でそう言った。ジルの言葉にヘンリお兄様も頷く。

「分かったわ」 

 私は少し不服ながらも、承知した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アリシアが悪女である事に拘りがある事がこの作品のキモだと思うんですが、この歳になってもアリシアの中の悪女のイメージがふわふわなのが気になります。 幼少期の頃に作者様がそのズレがポイント…
[一言] 王族が記憶の一部を改竄され、本人の意思と別の行動をさせられる。しかも本人はその事を自覚できない。 これ、直ぐに国王に報告と本人を隔離して国家として犯人探し、犯人が判明したら、その新派や一族郎…
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