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「ラヴァール国って魔法を使える人間が物凄く少ないみたいよ」
デューク様の所へ向かっている途中で、女子生徒の言葉が私の耳に響いた。
……ラヴァール国って大国よね? なのに魔法を使える人間が少ないの? 現在の世界情勢がいまいち把握しきれていないわ。過去を勉強するより、現在、未来の為に勉強した方が賢明よね。
私は女子生徒の言葉を聞いてからそんな考えが頭をよぎる。
「ねぇ、ジル、ラヴァール国って一体何人くらいの人が魔法を使えるのかしら」
「……実際にラヴァール国に行った事がないから分からないけど、少ないはずだよ」
「どうして?」
私の言葉にジルが瞳孔を開いた。
「どうしてって、そういう国なんだよ」
「貴族でも魔法を使えない人がいるって事よね?」
「ほとんどの貴族が魔法を使えないと思うよ」
ジルが当たり前のようにそう言った。
ほとんどの貴族が魔法を使えない? じゃあ、一体誰が魔法を使えるの? ラヴァール国の王族だけとかかしら。けど、それはあまりにも少なすぎるわね。
「いつだって客観的に世界を見ろって言ったのはアリシアだよ? デュルキス王国は他の国に比べて魔法を使える人が多いんだ。ラヴァール国が少ないんじゃなくて、この国が多過ぎるだけだよ」
「他国では魔法を使える人間は希少価値のある存在ってわけね」
「そういうことだね」
……ラヴァール国を傘下に置くためには、やっぱり内情をよく知らないといけないわ。
ぐだぐだ考えている時間はないわ。一刻も早くラヴァール国に行かないと。
「アリシア、デュークが来たよ」
ジルの言葉で私は我に返った。廊下の奥の方から、凄まじいオーラを放った王子が歩いてくるのが分かる。
……ああ、そうだったわ。本来の目的をすっかり忘れていたわ。
ラヴァール国に国外追放される計画を立てるのに夢中になってしまっていたわ。
「そういえば、私、どうしてデューク様を探していたのかしら……」
「は? 何言っているの、アリシア」
ジルが心底呆れた表情を浮かべながらそう言った。
デューク様に会うまでに色々な事がありすぎたのよ。目の前の問題を解決していくとかなり時間がかかってしまったのよね。
「アリシアって、たまに馬鹿になるよね。……デュークに謝るんでしょ?」
あ! そうだったわ。デューク様に謝らないといけないのよ。
「どうして……」
私がそう言うと、ジルは今までに聞いた事のないような大きなため息をわざとらしく吐いた。
「他の男には心は揺れ動く事はあっても、デュークは絶対にない、みたいな事言ったのは誰だっけ?」
……思い出したわ。あの言葉は冗談として受け取って欲しかったわ。
まぁ、悪いのは私なんだけど。ちゃんと謝らないとね。
「デューク様」
私はデューク様の正面に背筋を伸ばして立ち、彼をじっと見据えた。