176 十五歳 ウィリアムズ家長女 アリシア
エマに好かれるなんて絶対に嫌よ。これ以上、仲間が増えると悪女としての威厳がなくなってしまうわ。
何とかして、彼女をリズさん側に戻さないと。ああ、もうまたやる事が増えてしまったわ。
私は早くラヴァール国に行きたいのよ。エマに時間をかけている暇は無いのよね。
「アリちゃん、難しい顔をしてどうしたんだ?」
羨ましいわ、カーティス様はいつもお気楽そうで。
「何にもないですわ。そんな事よりもデューク様はどちらに?」
「お? ついにアリちゃんがデュークを探すようになるとは! お兄さん、嬉しいよ」
「おっしゃっている意味がよく分からないわ……」
「確かにアリちゃんには分からないだろうね」
「今までデュークだけがアリシアの事見ていたからね」
「もし分かっていたらデュークにあんな事を言わないよ」
ジルが止めを刺すように私にそう言った。
……そこまで言われるなんて。だって、本来はデューク様はヒロインに惚れているはずだもの。
まさか悪女の私に惚れるとは思わなかったのよ。……駄目ね、言い訳はよくないわ。相手の気持ちを汲み取れなかった私の落ち度だもの。悪女になりたくても、最低な女にはなりたくないわ。
けど、やっぱり気になるわ。一体私はどこで間違えてしまったのかしら。デューク様に好かれるような事をした覚えはないわよ。
……惚れるってどういう気持ちになるのかしら。惚れると好きになるは一緒の意味なのかしら。
ああ、恋愛入門書ってないのかしら。誰か書いてくれないかしら。
「アリちゃん、一体何を考えているの?」
「こうなったら僕達の声は聞こえないよ」
「眉間に物凄く皺を寄せながら考えこんでいるんだから、よっぽど難しい事なんだろうね」
「それは違うと思うよ」
「どうして分かるんだ?」
「基本的にアリシアは難問を解いていても難しい表情は一切しない。この表情は恋愛関係の時だけだよ」
「「恋愛関係……?」」
「ああ、もう、分からないわ!」
私は思わず心の叫びを声に出してしまった。
ジルとカーティス様とフィン様が少し驚いた表情で私を眺めている。
「どうしたの?」
カーティス様は目を見開きながら私にそう聞いた。
この際、もうカーティス様に聞くしかなさそうだわ。恋愛のマニュアル本なんてないもの。
恋多きカーティス様に頼るしかなさそうね。いや、そもそもカーティス様は本当の恋をしたことがあるのかしら。ほぼ遊びなのでは? いや、見た目で判断するのはよくないわね。
「……カーティス様は本気で誰かを好きになった事が」
「ないよ」
私が質問し終わる前にカーティス様は穏やかな口調で静かに答えた。
怒りは感じられないけど、何故か哀しみが感じられた。
これは深く追求しない方がよさそうね。まぁ、誰にでも色々な事情があるものね。
カーティス様ルートをクリアした覚えはあるんだけど、……何か複雑な事情があったかしら?
「俺から見れば、デューク様もアリちゃんも羨ましいよ」
「え?」
「一つ、俺から教えられる事は、……恋は理屈じゃないよ」
柔らかな口調でカーティス様は私の目をじっと見ながらそう言った。
「陳腐な言葉だね」
ジルの鋭い言葉でカーティス様の顔が少し引きつった。
「一瞬で空気を壊すな」
「折角格好つけたのに、カーティス可哀そう」
フィン様が哀れみの目をカーティス様に向けている。
「思ってないだろ」
カーティス様はフィン様を軽く睨みながらそう言った。
恋がどうのこうのよりも、カーティス様が私とデューク様の事を羨ましいと言った言葉の方が気になるわ。何が羨ましいのかしら。
「アリシアとデュークのどこが羨ましいの?」
ジルが少し真剣な口調でそう聞いた。
あら、私の心を完全に読み取ってくれるなんて、有能過ぎない?
私はそんな事を心の中で思いながら、視線をカーティス様の方へ向けた。