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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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「おはよう、アリシア」

 後ろから大きな腕で抱きしめられた。少し甘くいい匂いがふわりと漂う。

 普通に挨拶出来ないのかしら。少し前までは普通の挨拶だったのに……。というか、一国の王子が悪女に溺れているなんて、大丈夫なのかしら。王子を誘惑した罪で私が罰せられそうだわ。

「甘っ」

「朝から勘弁してよね」

 ヘンリお兄様とジルが呆れた様子で私を見てくる。……私というより、デューク様を見ているのかしら。

「おはようございます、デューク様。それと離して下さい」

 デューク様の体を私は片手で軽く押した。王子をあしらうなんて私も立派な悪女よね。 

 それにしても逞しい体ね。細身なのに、しっかりしていて、まさに理想の体よね。

「少し前まではこれで赤くなっていたのに、もう慣れたんだな」

 デューク様は口の端を軽く上げながら、意地悪そうにそう言った。

 ……もしかして、あのバックハグは私の反応を見て楽しむためなの? 

「ええ、慣れましたわ。これから先も少しも感情が乱れる事はないですわ。……デューク様以外の方に乱れる事はあるかもしれませんが」

 私は口角を上げながらそう言った。最後の一言で私の悪女ポイントはぐっと上がったはずよ。

「あら……」

「アリシア、満足気な表情を浮かべている場合じゃないよ」

 デューク様は私の全てを見抜くようにじっと私を見ている。 

 ……怒っているわ。確かに、私の言葉は間違いなく怒らせるような言葉だったわね。

 でも、悪女なんだもの。これくらいの事を堂々と言えないとね。

「俺は今までのデュークの自制心を尊敬しているよ」

 ヘンリお兄様がデューク様の方を見ながら少し焦った様子でそう言った。

 デューク様はヘンリお兄様の言葉に耳を貸さずにずっと私を見ている。

 ああ、彼の視線が痛いわ。怒りというよりも傷ついた顔をしているように一瞬見えた。

 これは私の失言かしら。……でも、私は悪女だもの。毒を吐いてこそ、悪女よ。

「おい~、そろそろ授業始まるぞ~、……ってどうしたんだ?」

 カーティス様が私達の方に近付いてきて、デューク様を見た後、驚いた表情を浮かべた。 

 デューク様がこんな表情で私を見ているなんて珍しいものね……。

「何もない。行くぞ」

 デューク様はきつい口調でそれだけ言って、私に背を向け早足で歩いて行った。

 完全に怒らせてしまったわね……。悪女になろうと決意したての私だったら、デューク様のさっきの表情を見たらきっとすぐに謝っていたわね。私はそんな事を考えながら彼の背中をぼんやり眺めた。

「何があったんだよ」

「俺に聞くなよ」

「ヘンリは現場にいたから知っているだろ」

「……色々あったんだよ」

「色々ってなんだよ」

 カーティス様とヘンリお兄様の小さな話し声が私の耳に入ってくる。

 間違いなくデューク様にも聞こえているわね。

「私って素晴らしく嫌な悪女ね……」

 私の言葉にジルが珍しく苦笑した。

「嫌な悪女というよりも、ただの酷い女だよ」

「……嘘でしょ。それは最悪だわ」

「もし、逆の立場だったらさっきの言葉は嫌じゃない?」

 私がもしデューク様に惚れていて、数年間一途に彼の事が好きで、愛情表現をしているにもかかわらず、他の女の人だったら心が乱れると言われる……。

「かなり嫌ね」

 私は思った事をそのまま口に出した。

「デューク様にそんな事を言われるのは嫌だわ」

「え? デュークに? アリシアって、デュー」

「私、もうデューク様に捨てられるのかしら」

「は? それは絶対にない。というか、アリシアってデュークのこと」

「さっきの私の最低な言動で私の悪女ポイントはゼロになったわ」

「僕の話を聞いて!」

 ジルが急に声を上げた。私は目を丸くして固まったままジルを見た。ジルは軽くため息をついた後、真剣な瞳で私をじっと見つめた。

「アリシアって、デュークの事をもう好きでしょ?」

 私はジルの言葉を理解するまでに少し時間がかかった。

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