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「アリシア、いる?」
扉の向こう側でジルの声が聞こえた。
「入っていいわよ」
「誰もいない?」
「ええ、私だけよ」
私がそう答えると、一瞬沈黙があった後、ゆっくりと扉が開いた。
……あら、どうしてそんなにも真剣な表情を浮かべているのかしら。まだ何か問題があるのかしら。
「どうしたの?」
「……学園でこれを見つけたんだ」
ジルは小さな声でそう言って私に一枚のカードを渡した。
「どこでこれを?」
私はジルからそのカードを受け取り、眺めながらそう聞いた。
……これはトランプだわ。この世界では確か、ロイヤルカードって言ったかしら。貴族の賭け事とかで使われるのよね。大人の遊びをするためのカード、……でもこれがどうして学園にあったのかしら。まぁ、生徒が遊びで賭け事しているって事も考えられるわね。
「狼が出現した所で見つけたんだ」
「え?」
私はジルの声に思わず間抜けな声を出してしまった。
「つまり、これに何か意味があるって事かしら……」
「それは僕も分からない。でも、どうしてスペードの四なのかは不思議だよね」
スペードの四……、犯人は何か残したって事かしら? それとも深読みし過ぎ?
はぁ、刺激のある生活の方が好きだけど、たまに長閑に暮らしたいとも思ってしまうわ。
「このカードが犯人だとすれば」
「「貴族のケイト」」
私とジルの声が見事に重なった。
「あ、やっぱりアリシアも分かってたんだ」
トランプの世界ではスペードは貴族、四の読み方はケイト、ここまでは分かったわ。
「でも、これを信じるわけにはいかないわ。罠かもしれないもの」
「そうだね、ラヴァール国の人間が魔法学園の誰かに罪をかぶせようとしたのかもしれないしね」
「このカードだけだと何も分からないわね……。謎が深まるばかりだわ」
……やっぱりラヴァール国に侵入するしかないのかしら。
でも、絶対にお父様は許してくれないわ。リズさんの監視役でさえやめさせたがっていたのだもの。
自ら国外追放になるとか……? それはあまりにも浅はかな考え方だわ。
……でも、ここは悪女らしく国外追放になった方がいいかもしれないわ。そして、またデュルキス国に戻ってくるのよ。上手くいくか分からないけど、もしこれが成功したら、確実に私は歴史に残るわ。
「アリシア? 何を考えているの?」
「……リズさんの監視役についてよ」
「僕、魔法は使えないけど、嘘は分かるよ」
ジルが私を疑い深く見つめる。
「私が悪女になるためになにが一番良い選択かを考えていたのよ」
「……で、結論はでたの?」
ジルが少し呆れた表情を浮かべた。
今の私の考えをそのままジルに話せば、間違いなく反対されるわ。けど、嘘はばれるだろうし……。
「私はリズさんの隣にいるだけではだめなのよ」
私はジルを見据えながらそう言った。