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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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「アリシア」

 家に帰ると小屋の前でお父様が立っていた。

 あら、なんだか少し老けた気がするわ。それでも格好いいお父様だけど……。

「どうなさったのですか?」

「レベル90おめでとう」

 低く優しい声でお父様はそう言った。

 ……そうだったわ、私、小屋を出てから初めてお父様に会うんだったわ。

「有難うございます」

 私は丁寧にそう言ってお辞儀をした。お父様は難しい表情で私を見ている。

 久しぶりの再会なのにどうしてそんな表情をなさっているのかしら。

 お父様は眉間に皺を寄せながら私の左目にある眼帯にゆっくり慎重に触れた。

 ああ、これの事ね。大丈夫よ、私は気にしていないもの。悪女になる為にすでに結婚も諦めているし……。だからお嫁に行けなくても平気よ。……この顔のお父様は私に謝ろうとしている顔だわ。

「お父様、私は今、幸せですわ。だから私に決して謝らないで下さい」

 私は静かにそう言ってお父様に微笑んだ。

「そうか……。家には戻ってくるんだな?」

「家に?」

「まさかずっと小屋で過ごすつもりじゃないだろうな」

 お父様はそう言って少し目を見開いた。

 そうだわ! 小屋で二年も過ごしていると、本当の家の事を忘れていたわ。

 ……お屋敷に戻るべきなのかしら。

「小屋に籠れ、家に戻れ、……大人って自分勝手だね」

 ジルが小さな声で毒を吐いた。その言葉にお父様は苦しそうな表情を浮かべた。

 確かに、ジルの言っている事はもっともだわ。でも、お父様は私を心配してリズさんの監視役をやめさせるためにあんな事を言ったのよね……。

「図書室があるのは屋敷だし、情報収集するなら屋敷の方が便利かもね。……それにアリシアみたいな女の子は小屋みたいな小さな場所でいるべきじゃないと思うよ」

 私はジルの言葉に思わず目を丸くした。ジルがお父様を助けるような事を言うなんて……。

 私のいなかった二年間で随分変わったのね。

「元の居場所に戻るわ」

 私がそう言うと、お父様の表情がパッと明るくなった。

 あら、そんなに私に戻ってきてほしかったのね……。というより、私を小屋に籠らせた事を本当に気にしていたみたいね。

「良かったね、アーノルド」

 ジルは小さな声でお父様にそう言った。


 久しぶりだわっ! 私は自分の部屋を見渡した。ああ、このベッドも懐かしいわ。私がいない間もお手入れされていたみたい。

「アリシア様っ!」

 興奮した口調で私の名前を呼びながら、扉を叩く音が聞こえた。……ロゼッタ?

「入っていいわよ」

 落ち着いた調子で私がそう言うと、勢いよく扉が開いた。

「アリシア様! お戻りになられたのですね」

 ゲームでは私の事を嫌いだったはずのロゼッタが目に涙を浮かべて、私の帰りを喜んでいる。

 ロゼッタとは直接顔を合わせてはいなかったが、色々物を小屋に運んできてもらっていた。

「アリシア様……、目が……」

 ロゼッタは目を大きく見開きながら弱々しい声でそう言った。

 ああ、一から説明するのはなんだか面倒くさくなってきたわ。

「どうなさった……のですか?」

「あげたのよ、ある人に」

 私はそう言った後にある事に気づいた。お父様は私の目を見てどうしたのか聞いてこなかったわね。

 つまり、私の目の事情を知っていたって事かしら……。まぁ、知られているとは思っていたけど。

 私の言葉にロゼッタはこれ以上追及してくることはなかった。そして急に我に返ったように綺麗に頭を下げた。

「私情で突然、部屋にお邪魔して申し訳ございませんでした」

「平気よ。心配してくれて有難う」

 私は彼女の頭に手をふわりと置いて、そう言った。ロゼッタはもうすぐ泣きそうな目で私をじっと見た。どうして泣きそうなのかしら。今の私は悪女っぽさ全くないわよ。むしろ優しい人になっているわ。もしかして、もう私、言葉一つで人を泣かせる悪女のレベルまできたのかしら。それとも、私に自分の頭に手を置かれた事が嫌だったのかしら。確か、ロゼッタは私より年上だったはずだわ……。

「アリシア様……、本当に戻ってきてくださり嬉しいです」

 私がそんな事を考えていると、ロゼッタの震えた声が耳に入ってきた。

 ……感動の涙だったのね。潤んだ瞳を私に向けながら、ロゼッタは嬉しそうに笑った。

 自分の帰りを喜ばれるっていいわね。

「では、私はこれで。失礼いたしました。……あ、後、アリシア様、大変美しくなられましたね」

 ロゼッタは部屋から出る前に私の方を振り返り、嬉しそうに顔を綻ばせた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いいお話しです。 [気になる点] 目は気づいたのに、 髪の毛の件を父上と侍女が突っ込まなかった件がちょい気になった。
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