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「あっ! デュークだ!」
メルは遠くを指さしながら声を上げた。
……本当だわ。なんてオーラなのかしら、あの集団。あれが生徒会ね……。アイドルみたいだわ。
デュークが真ん中でその隣にリズさんがいて……あのいつものメンバー達が横に並んでいる。
女子生徒達の黄色い声が聞こえる。……デューク様って皆の前で結構黒い部分を見せているのに、今もこんなに人気があるなんて、やっぱり世の中顔ね。
ここから見たら生徒会の皆がとても遠い存在に感じるもの。あんなに格好良かったら確かに人気もあるわね。……私がこの学園で嫌われる理由がよく分かるわ。
「デューク! アリアリ、超可愛くなったよ!」
メルが大声でデューク様達の方に向かって叫んだ。
デューク様と目が合った。……目を見開いているわ。一体、どういう驚きなのかしら。
メルは私の事を褒めてくれるけど、デューク様は髪が長い方が好みなのかもしれないわ。
デューク様は少し早足で私の方へ向かってくる。……なんだか怖いわ。
どうして眉間に皺を寄せながら私の方へ向かって来るのかしら。
……逃げるべき? でも、悪女が逃げるなんて聞いた事ないわよ。
デューク様は私の目の前に立ち、私をじっと見つめる。……どうしてそんなに機嫌が悪そうなのかしら。そんな顔していても美しいのね。
私もデューク様をじっと見返した。その瞬間、デューク様は片手で軽く自分の目を覆った。
……見るに堪えないって事かしら? そんなに短い髪が似合ってなかったのかしら。
「可愛すぎて腹が立つ」
ぼそりとデューク様の声が聞こえた。
……えっ!? そっちなの? 分かりにくいわね。
「俺が一番最初に見たかった」
「はい?」
私は声を出してしまった。……なかなかの独占欲だわ。私、デューク様はもっと大人びていると思っていたわ。……やっぱり思った事を口に出せなんて言ったのが失敗だったかしら。でも、なんだか少し愛おしいわね。
「え? アリちゃん、髪の毛切ったの? 可愛いね~」
チャラいカーティス様に言われても……。
「アリシア様が可愛いのは当たり前ですわ」
「アリは美人だから何でも似合うな」
キャロルに続いてヘンリお兄様はそう言って私の頭を撫でた。リズさんとリズさん派は何も言わず驚いた様子で私を見ている。……思ったのだけど、リズさんって私を嫌っているわよね? リズさんはデューク様が好きで、デューク様は私が好きなんだもの……。なんだか複雑だわ。私はデューク様を好きなのかしら……。嫌いか好きかで言えば勿論、好きだわ。尊敬しているし……愛おしいと思うのは恋なのかしら?
「大人気だね、ショートヘア」
ジルが横でそう呟いた。確かに髪の毛を切っただけでこんなにも褒めてもらえるなんて悪くないわね。
「きっと食堂で沢山の人間が見ているから……デュークはかなり後に見た事になるね!」
メルが意地悪そうに笑ってそう言った。……なかなか性格が悪いわね。その様子をキャロルが面白そうに眺めている。なんだかキャロルとメルの表情が似ている気がするわ。流石親戚ね。
……こういう時って悪女はどんな反応するのかしら。男を魅了する悪女の行動は……分からないわ。
リズさんにもっと私に敵意を抱いてもらうには……デューク様に何かすればいいのかしら。
「デューク様、少ししゃがんで頂けますか?」
私がそう言うと、デューク様が不思議そうな顔をしてしゃがみ込んだ。
「髪は失いましたが、デューク様をお慕いする気持ちは失っていません」
私はデューク様の耳元でデューク様にしか聞こえない声でそう囁いた。デューク様が一瞬固まったのが分かった。
このお慕いする気持ちっていうのはほとんどが尊敬の念だけど……少し恋心も入っているかもしれないわね。自分の事なのに最近、自分の気持ちが分からなくなっているのよね。
でも、これで私を見るリズさんの眼はさらに鋭くなったはずよ。私は悪女だもの、自分の為なら人を利用するわ。
「一瞬理性が飛びかけた」
ふと隣を見ると立ち上がったデューク様が片手で口元を覆いながらそう呟いた。
「いつも余裕のあるデュークが珍しいね~」
メルはデューク様をからかうようにしてそう言った。
……こんなデューク様を見るのは初めてだわ。いつもはどちらかと言うと、私がデューク様に翻弄されているのに、今回は逆みたいだわ。ショートヘアパワー、凄いわね。
私はリズさんの方に目を向けた。……あら、なかなか凄い形相だわ。ヒロインがそんな顔をしてもいいのかしら。まぁ、私もそういう顔をして欲しくて、こんな行動に出たのだけど。
「アリちゃんってなかなかの悪女だよね~」
「それはただの誉め言葉だよ」
カーティス様の言葉にジルがすかさずそう言った。
あら、ついに私の悪女っぷりが浸透しつつあるみたいだわ。素晴らしい展開よ。このまま順調にいけば、私はきっと悪女として歴史に名を刻むことになるわ!
私はそんな事を思いながら口元を少し緩めた。
更新が遅れてしまい申し訳ございません。
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