表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

150/710

150

「結局狼について何も情報を得られなかったじゃない」

 私は小屋の前に立って空を睨みながら呟いた。

 世の中そう上手くいかないものね。

 ……濁った空だわ。こういう空の時は大体悪い事が起こるのよ。だから今日、狼に関しての情報が一切手に入らなかったんだわ。……空のせいにしてはだめね。これは自分の力不足だわ。

 自分の目標を達成出来なかったのを空のせいにする私って本当に器が小さいわね。

「そんな憂鬱そうな表情しないでよ。また明日があるし」

 ジルは私を見ながらそう言った。

「後さ、どうしてまた小屋に戻ってくるの? もう魔法使えるんだよね?」

「二年も過ごすと愛着が湧くのよ」

「名前でもつけたら?」

 ジルは真顔でそう言った。

 真面目に言っているのか、ふざけて言っているのか全く分からないわ。

「そうね、ジョゼフィーヌとかどうかしら?」

「……女の子なんだ」

 ジルは少し目を見開いて真剣な表情をしながらそう言った。

 どうやらジルは小屋を男だと思っていたらしい。でもこのこぢんまりとした感じは女の子っぽさがあるのよね。

「じっちゃんの所に行く?」

「そうね」

 私はそう言って森の方に足を向けた。


 たった数日ぶりの貧困村なのに、また空気が変わっているような気がした。

 活気に溢れているわ。ウィルおじさんは一体何をしたのかしら。

「アリシア!」

 レベッカが私のほうに駆け寄ってくる。

 片足で見事なジャンプをしている。凄い筋力だわ。疲れないのかしら。この村で義足を作れる材料なんてないものね……。

 レベッカの銀色の髪がさらさらと揺れている。その銀色の髪が太陽に反射して輝いた様子を見てみたいわ。

 貧困村にいつ太陽は現れるのかしら。

「レベッカ、片足でそんなに跳ねてしんどくないの?」

 私の言葉にレベッカは一瞬目を丸くしたがすぐに噴き出した。

「私、この足でも剣を持って戦えるよ」

 レベッカはそう言って満面の笑みを浮かべた。

「剣を持って?」 

 私はレベッカの言葉に固まった。

 足一本で剣を持って戦えるの? 信じられないわ。いくら体幹が出来上がっていて腕力があっても……戦えるまでの戦闘能力は身につけられないわ。……これはあくまで私の考えだけど。

「アリシアが頑張っているんだから、私も頑張らないといけないなって思っただけ」

 レベッカは私の目を真っすぐ見ながらそう言った。

 熱い瞳だわ。私に忠誠を誓った騎士みたいだわ。

 ……きっと私には計り知れない努力をしているのだろう。

「だって私、アリシアにこの村の救世主になれって言われたからね。約束は守るよ」

 そう言ってレベッカは目を細めて笑った。

 こういう時って悪女ならどうするのかしら。素直に褒めないだろうし……。

 ……使えない者は切る。そうよ、悪女なら絶対そうだわ。

 レベッカが本当に強いのかどうかを確かめる必要があるわ。

「重さのある剣で本当に戦えるくらい戦闘能力があるっていうの?」

 私はレベッカから目を逸らさず少し低い声でそう言った。

 レベッカは私の言葉に目を大きく見開いた。

「レベッカに剣の腕を聞くなんて愚問だな」

 いきなり若い男性の棘のある声が聞こえた。

 私は声がしたほうに目を向ける。

「あなた誰?」

 私はいきなり現れた男の方を見ながらそう言った。

 濃いブルーベリー色の髪の毛に少し吊り目で顔の真ん中に誰かに切られたような大きな傷がある。

 なかなか悪そうな見た目ね。

「俺はネイトだ。ウィルは今会議しているから俺が来た」

 男は私の目の前に立って私を見下ろすようにしてそう言った。

 意外とでかいわね。それに良い筋肉をしているわ。それによく見たら顔も整っているし……。

 ああ、たまには不細工を見たいわ。ここだけ聞くと最低な言葉ね……。

 でも、不細工がいないなんて現実っぽくなくて嫌なのよね。

 ……というか、ウィルおじさんは会議しているって言ったわよね? ……なんの会議かしら? 

「名前は?」

 ネイトは私を軽く睨みながらそう言った。

 あら、私、名乗っていなかったわ。私はすぐに姿勢を正してネイトの方を見た。

「私はアリシア、ウィリアムズ・アリシアよ」

 私はそう言って微笑んだ。

 悪女っぽい微笑みはもう朝飯前よ。毎日鏡の前で練習していたんだから。

「……どうしてあんたみたいな令嬢がこんな所にいるんだよ」

 ネイトは嫌そうな表情を私に向けた。

 ……まぁ、それが当たり前の反応よね。貴族が歓迎されるはずないもの。

 それにしても露骨に私に敵対心を見せてくるわね。私がここにいる事が気に食わないみたいだわ。

「剣も触ったことのない嬢ちゃんがこんな所に来るなんて場違いじゃねのか? なぁ、皆もそう思うだろ?」

 私を馬鹿にするようにネイトは声を上げて周囲に目をやりながらそう言った。

 周りにいた人々は皆、腕を高く上げてネイトに意見に賛同した。

 ……一気に騒がしくなったわね。でも皆の声が聞けて良かったわ。

「ネイト!」

 レベッカはネイトに向かって怒鳴った。

「おい、レベッカこいつの味方するのかよ」

 ネイトはレベッカを睨みながらそう言った。

 その声と同時に周りの声が止んだ。……ネイトがリーダーなのかしら。

 きっと聞いても答えてくれないだろうし、後でウィルおじさんに聞きましょ。

「アリシアは私の命を救ってくれたのよ。それに彼女は剣だって使えるわ」

 あら、どうして私が剣を使える事を知っているのかしら。

 この村で私の剣術を披露した覚えはない気がするわ……。

「お前の足を切り落とした時だろ。あれぐらいなら誰だって出来る。まぁ、お嬢様であれが出来たのはなかなか凄いかもしれないな」

 ネイトはそう言って嘲笑した。あら、なかなかいい表情じゃない。悪そうな表情は大好きよ。

「それにお嬢ちゃんは魔法が使えるんだろ? 剣なんて要らないだろ。俺らをあざ笑うためにここに来たのか?」

 ネイトの視線が私に移った。なんて憎しみの籠った目なのかしら。

 でも、確かにそう思われるのが普通よね。これが当たり前の反応だわ。 

「ウィルに目をあげたかなんだか知らねえけど、お前は余所者」

 私の目を真っすぐ睨みながら声を低くしてネイトは私にそう言った。

 黄色い瞳……私の目に少しだけ色が似ているわ。私はそんな事をぼんやり考えた。

 すると、いきなり私の隣で凄まじい殺気を感じた。

 ジルがネイトを今にも殺しそうな勢いで睨んでいる。

「アリシアは」

「ジル、いいわ」

 私はジルの言葉を遮った。それと同時にネイトの目がジルへ移った。

「おい、ジル。お前、貧困村から出たくせにまた戻って来てどういうつもりだ? 裏切り者」

 吐き捨てるようにネイトはそう言った。彼の目は怒りと憎しみで溢れていた。

 ……皆、この村から出たいのよね。たった一人特別な人間を作ってしまった。

 しかも幼い少年……。きっと彼の賢さを皆知らないのよね。

 ああ、なんだか面倒くさい事になってきたわ。とにかく黙らせたいわ。

「……私、レベッカよりも強いわよ」

「は?」

 ネイトが片方だけ眉を上げてそう言った。

「アリシア、自分で言うのもなんだけど、それは」

「ないな」

 レベッカの言葉を先にネイトが力強く言った。

 あら、私、物凄くお嬢様育ちをしたって思われているみたいだわ。

「アリシア、顔がにやけているよ」

 ジルは少し呆れたようにそう言った。さっきまでの殺気は一切なかった。

 どうやら私の意図が分かったみたいだわ。ジルが嬉しそうな表情で口の端を上げた。

 私がしようと思っていた表情をとらないで欲しいわ。

「なら試してみる? 剣の腕」

 私は口角を軽く上げて静かにネイトを睨みながらそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ