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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ
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「ジル! 起きて!」

 私はソファで寝ているジルを叩きながらそう言った。

「……何?」

 ジルは薄目を開けながら少しかすれた声でそう言った。

 低血圧なのかしら? 物凄く不機嫌そうだ。

 眉間に皺を寄せながら私を見ている。

 珍しいわね、ジルが私をそんな目で見るなんて。なんだか新鮮だわ。

 ジルが睨んでいる相手って大体リズさんなのよね……。リズさんはいつもこの目に見つめられているのか。なかなか迫力ある目よね。人望のあるリズさんならこのぐらいの歳の少年にこんな目で見られる事なんてないんじゃないかしら。

 でもヘンリお兄様の教えのせいで昔より睨まなくなったような気がするわ。

 ……ぼんやりジルを眺めている場合じゃないわ。

 私ははっと我に返り、姿勢を正して立った。

「見てて」

 私はそう言って軽く指を鳴らした。

 その瞬間、机の上に広がっていた地図が私の元に向かってきた。

 私はその地図を優しく掴んで満足気に微笑んでジルに見せた。ジルは薄目のまま地図を見ている。

 無反応って……何かリアクションして欲しいわ。

「……それがどうしたの?」

「魔法が使えているのよ!」

 私がそう言うと、ジルの目が見開いた。ようやく目が覚めたようね。

「良かった」

 ジルは目を丸くしたまま安堵の言葉を漏らした。

 結構心配してくれていたみたいだわ。人に心配されるってなんだか嬉しいものね。

「今日から、ウィリアムズ・アリシア、完全復活よ」

 私はそう言ってジルに微笑んだ。私の言葉にジルも嬉しそうに笑った。


「で、どうして今日もアーノルドに会わずにこっそり家を出てるの?」

 私が魔法学園の門をくぐろうとした瞬間、ジルは少し低い声でそう聞いた。

 ステンドグラスが太陽の光に反射して眩しい。あのステンドグラスの需要は一体何なのかしら。

 あんな所にお金を使う前にもっと改善すべきところが沢山あるはずだわ。

「アリシア、聞いてる?」

「聞いているわ。でもあまりにもあれが眩しくて……」

「話を逸らさないで」

 ジルが少し怒ったように私の方をじっと見る。私は目を細めながらジルの方に目を向けた。

「優先順位を考えた時にお父様に会う事が下の方にきてしまっただけよ」

「前は」

「前は確かにお父様に会う事が一番重要だったけど、この一週間で色々な事があったでしょ」

 私はジルの言葉を遮るようにそう言った。

 本当にこの一週間で考えなければならない事が増えてしまったのよね。

 お父様に会っている場合じゃないのよ。……リズさんの監視役を外される事は物凄く重要な事だけど、それよりもしなければならない事があるのよね。

 ウィルおじさんの事とか、狼の事とか……とにかく、お父様に会うのは後回しなのよ。

「確かに、アーノルドに会う前にしなければならない事が沢山あるね」

 ジルは私の言葉に納得したようにそう言った。

 結構長い付き合いだから私の事を理解してくれるのが早いわね。

「でしょ?」

 私はそう言ってジルに微笑んだ。

 私達は校舎の方に向かった。

 たった数日ぶりの魔法学園なのになんだか久しぶりに感じるわね。

「ねぇ、賭け事しない?」

 私はジルに向かってそう言った。

「は!?」 

 ジルは口を開けて、私の事を奇妙なものを見るような目で見ている。

 確かにいきなり賭け事をしようなんて言われたらそんな表情になるわよね。

「もう来ないのかと思っていましたわって絶対誰かに言われると思うわ」

 私は口の端を軽く上げてそう言った。

 私の言葉にジルは一瞬固まったがすぐに吹き出した。

「僕は、死んだと思っていたって言われると思う」

 ジルは笑いながらそう言った。

 私はその言葉に思わず吹き出してしまった。 

 今から自分達が言われる悪口を考えながら笑っている人なんて私達ぐらいだろう。 

「それなかなか酷いわね」 

「見た目は綺麗だけど中身は汚い人達の集団だからね」

「それは否めないわね」

「でも、世間は中身が綺麗よりも見た目が綺麗な方を欲するけどね」

「それも否めないわ……だから、両方兼ね備えた人が一番良いんじゃない? リズさんみたいな」

 私がそう言うと、ジルは黙り込んだ。

 私は悪女だから見た目を綺麗にする派なんだけど、リズさんは中身を綺麗にする派よね。

 まぁ、私の見た目も傍から見れば酷いみたいだけど。眼帯以外は綺麗にしているから許して欲しいわ。

 私は中身はどろどろでいいのよ。だって私は悪役令嬢よ。中身が綺麗なのはヒロインだけで十分だわ。

 そんな事をぼんやりと考えながら私は歩いた。

「キャザー・リズよりアリシアだと思う」

 ジルが何かボソッと言った言葉を聞き取る事が出来なかった。

「何か言った?」

「何にもないよ」

 私が聞くと、ジルは満面の笑みを私に向けてそう言った。

 その笑顔を久しぶりに見たような気がするわ。

 何か言ってたような気がするけど、どうせ問い詰めても教えてくれないと思うし……それにジルは私に必要な事なら絶対に教えてくれるはずだから、気にしなくても良いって事よね。

「ねぇ、僕が賭けに勝ったら、アリシアのそのブレスレットが欲しい」

 ブレスレット? 突然のジルの言葉に私は固まった。ジルは真剣な目を私に向けている。

 私が持っているものを欲しいとか? ……それはあまりにも自意識過剰よね。

「良いわよ。じゃあ、私が勝ったら……ジルが持っている私が知らないと思う知識を教えて」

 私の言葉にジルは目を見開いた。 

「そんなのでいいの?」

「そんなのって、知識は最高の財産よ」

「そっか」

 ジルはそう言って笑った。今日はよく笑うわね。私もジルの笑顔につられて笑った。

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