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「ヘンリがアリシアに俺が二人殺したって言ったって聞いたからな」
私の表情を読み取ったのかデューク様はそう言った。
「ああ、そう言う事ですのね」
「喋り方」
「……そんなに嫌ですの?」
「ああ、嫌だ」
デューク様は素直にそう言った。
……デューク様のキャラが全く理解できないわ。意地悪だという事だけは分かったわ。
でもまさか、本当に無口をやめるなんて思っていなかったわ。
「聞きたいのはそれだけか?」
「他にもあるけど……その前に殺していないってどういう事なの?」
私がそう言うと、デューク様はまるで悪魔のような笑みを浮かべた。
耳の所で翡翠色と蒼色の魔法石が窓から差し込む太陽の光を受けて眩しく光った。
この人はやばいと直感で分かった。私の全神経が彼から逃げようとしている。
「……俺が殺したって噂を広めたんだ」
その言葉に私は鳥肌が立った。
美しい透き通った青い瞳が少し暗くなった気がした。
「実際はその二人には何をしたの?」
「退学にしただけだ」
デューク様は無表情でそう言った。部屋の空気が少し冷たくなった気がした。
……なんだか頭が混乱してきたわ。
落ち着いて考えましょ。まず、デューク様に重い過去があるのはゲーム情報で知っている。
そして現在、ヒロインと恋するルートではなく私に恋してしまったから……その暗い心は癒されていない。未だに彼は闇を抱えたままなのよ。
だから、私の悪口を言っただけで彼ら二人を殺したんだと思ってしまったけど、それは偽の情報だった。
……どうなっているのかしら。けど、退学にはしているのよね。
恋する相手を変えただけでこんなにも人間って変わるのね。恋は人を変えるって本当だわ。
「てっきりデューク様は狂人なのかと思っていましたわ」
「アリシアに言われてもな」
私がそう言うとデューク様は口元を緩めた。
「周りにそう思わせただけで俺は常識人だ」
「どうしてそんな事する必要があったの?」
私がそう言うと、デューク様の瞳は鋭く光った。
「さっき食堂でアリが言った事と一緒だ。人は些細な言動で周りから価値をつけられる。俺は変わった王子っていう目で見られる。そうなると周りから期待される事もなく自由に生きていける」
「どんな自由ですか?」
私の言葉にデューク様は少し顔を曇らせた。
「俺も貧困村に行こうとしたんだ、アリシアが行く前に」
私はその言葉で全てを理解した。
デューク様はこの国の王子である限り、自由はほとんどない。
勝手に視察をする事も出来ない。これが第二王子だったなら出来たのかもしれないけど……デューク様は第一王子だもの。
「いくら魔法が使えて、賢かったとしても狂人だったら誰も期待しないだろ?」
「そうでもない気がするわ」
「まぁ、優秀でしかない王子よりかは自由になれる」
「それはそうね」
……とんでもない策略家ね。デューク様は私が今まで会ってきた中で最も計算高く、恐ろしい人間かもしれないわ。ゲームの中のデューク様はこんなにも計算高くなかったのに。
デューク様の方が一枚上手だわ。こんな方に私は好かれているのね……。
正直、まだ、好きとかそんな感情があんまり分からないのよね。
「それと俺が誰かを殺したって噂ならアリシアの耳に入るかと思ったが、それは無理だったみたいだな」
デューク様は表情を変えずにそう言った。
さらっとそんな事を言わないで欲しいわ。私、恋愛の経験に関してはゼロに等しいのよ。
「……デューク様は私のどこが好きなのですか?」
私は無意識のうちに思った事をそのまま口に出してしまった。