130
「私現場を見ていたんですけど~」
そう言ってメルは全員をからかうように体をくねくねし始めた。
「早くしろ」
デューク様は冷たい目でメルを見てそう言った。
「チェッ、分かったよ」
メルは口を尖らせながらそう言った。
……何をするのかしら。
『何か用かしら? あの……少しついてきて欲しいんです はい? だからっ! あのっ……えっと どうして? え? どうしてついてきて欲しいの? 理由を教えて えっと……その ちゃんと話せないの? 人に何か伝えたいならはっきり話しなさい』
するといきなりさっき女子生徒とした会話が食堂に流れ始めた。
何これ……凄いわ。
「土魔法特有の魔法だ」
ジルが横で小さく呟いた。
土魔法って凄いのね……でも全く土魔法感ないわ。
魔法に関しては本当に雑に作ったわね……。まぁ、ファンタジーの世界だから何でもありよね。
「何よこれっ!」
リズさんの隣にいた女子生徒が声を震わしながら叫んだ。
食堂がざわざわし始めている。さっきまでの私に対する冷たい空気が少し柔らかくなった気がする。
「どうしてそんなに焦ってるの? ふふふ」
一瞬メルが悪魔に見えた。見た目は天使、中身は悪魔……。
「この魔法を使うならちゃんと周りに同じ魔法の人がいないか確認しないと~! って私、姿消してるから見えないかっ! テヘ」
メルは可愛い声でそう言って舌を出した。誰もメルのペースについていけない。
「もういいぞ、メル」
デューク様が落ち着いた声でそう言った。
多分この状況でメルに声を掛けられるのはデューク様だけだわ。
「もうっ! 本当にデュークって人使いが荒いよね~」
メルは少し頬を膨らませながらそう言うと同時に姿を消した。
……幽霊みたい。
「幽霊みたいだね」
ジルが目を少し見開きながらそう言った。
私が思っていた事を言うなんて……これぞ以心伝心ね。
「どういう事? ちゃんと説明して」
リズさんが少し怒った口調で女子生徒に向かってそう言った。
女子生徒は急に慌て出した。目の動きが凄いわよ。まるで目が躍っているみたいだわ。
私を罠にはめるなんて貴方には無理ね、私は心の中でそう呟いた。
「あの……リズ様、でも……」
「何!?」
「私も彼女に魅力がないって言われましたわ!」
女子生徒は声を張り上げてそう言った。
……だから指を差さないで欲しいわ。
「話の状況が全く分からないんだけど」
リズさんは困惑した表情でそう言った。
確かに、彼女の言っている事は支離滅裂としていて理解しにくい。
「私が彼女に魅力がないって言ったのよ」
ため息をつきながら私はそう言った。
いつもなら敬語を使っているけど……今は良いわよね。
「どうして?」
「そう思ったからよ」
「そうじゃないわ! 彼女は十分魅力的よっ!」
リズさんは急に声を大きくしてそう言った。
怒れば怒るほどそのエメラルドグリーンの瞳が輝いて見える。
「人を罠にはめようとする人間が?」
私は嘲笑いながら彼女の方を少し睨む。
「それは……確かに良くない事だわ。でも彼女は魅力的よ」
リズさんが静かに落ち着いた声でそう言った。
あら、いかにもヒロインって感じの台詞ね。
「確かに、卑劣で低俗な事を行ったりしている所は魅力的かもしれないわ」
「……なっ」
私の言葉を聞いてリズさんは言葉を失ったみたいだ。
「例えば彼女のどこが魅力的だと思うの?」
「……エマは優しいし、気配りが出来て信頼もあって、素敵な子よ」
「見た目は?」
「え?」
「だから……彼女の内面の話じゃなくて外面の魅力を聞いているの」
私は彼女を見据えながら言葉を発した。




