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「昨日はウィルおじいさんの所に行き忘れたわね」
「そうだね、家に帰ったらもう真っ暗だったし、疲れていたからね」
ジルは私を少し睨みながらそう言った。
何とか今日もお父様にバレずにこっそり学園まで来れたけど……これが暫く続くのよね。
昨日の出来事をもしヘンリお兄様が報告していたら……。
それに御者が黙っているはずないもの。絶対に彼はお父様に言っているわ。
でも馬車に乗らないと物凄く時間がかかるのよね。
残り六日もこれを続けれる自信がないわ。
だめよ、悲観的になるのはまだ早いわ。
それに悪女が自信がないなんて思っては絶対にだめだわ。
「アリシア様」
突然少し高めの柔らかい声が私の耳に響いた。
振り返ると、見たことがない女の子が立っていた。
ザ・モブキャラって感じの女の子ね。害は特になさそうだわ。
茶色い髪を二つに結び、焦げ茶色の瞳に、顔は……普通。
これといって特徴がないわね。
「何か用かしら?」
「あの……少しついてきて欲しいんです」
「はい?」
「だからっ! あのっ……えっと」
「どうして?」
「え?」
「どうしてついてきて欲しいの?」
そう言うとその女の子は黙ったままおどおどし始めた。
いくらなんでも怪しすぎるわよ。
好奇心旺盛でも私はどこかの頭がお花畑の主人公みたいにのこのこ知らない人について行ったりはしないわ。
「理由を教えて」
「えっと……その」
「ちゃんと話せないの? 人に何か伝えたいならはっきり話しなさい」
「……ごめんなさい」
「謝ってほしくなんかないわ。私は理由を聞きたいの」
「いえっ、あの……失礼しますっ!」
そう言って女の子は走り去って行った。
一体何だったの。
誰かに脅されているとか?
「何今の……。」
「分からないわ」
「……怪しすぎるのが逆に怪しい」
「そこまで深読みする必要はないんじゃない? 気の弱そうな女の子だったし」
私達は特に彼女を気にすることもなくそのまま校舎に向かった。
なんとか逃げ回ってデューク様達と同じ授業を受けずに午前中は過ごせた。
教室での視線はやっぱり物凄かったけど……デューク様と一緒に授業を受けるよりはましだわ。
私の魔法が戻らない限り絶対に逃げないと。
「ジルはデューク様達と受けなくていいの?」
「僕はアリシアと一緒にいるよ」
ジルは少し笑ってそう言った。
私達は食堂に向かった。
……どうして皆そんなに私の方をじろじろ見ているのかしら。
昨日は驚いた目を向けられる事が多かったが今日は非難の目の方が多い。
食堂に入ると一斉に皆が私の方に振り向いた。
……何?
敵意、怒り、軽蔑、色々な目が私に向けられている。どれも私にとっていいものではない。
私、何かしたかしら?
そんな目を沢山向けられるなんてまるで悪女ね!
もし悪女検定がこの世にあったら私、間違いなく一番上の資格を取っているはずだわ。
……あまり自分を過信し過ぎてはだめね。
「来たわよ」
低く憎しみのこもった声が聞こえた。
そう呟いた女子生徒の目は今から私を罠にはめようとしているように見えた。