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「アリシア」
教室に入ろうとすると後ろからデュークの声が聞こえた。
私はゆっくり振り向いた。
デューク様とカーティス様が並んで立っている。
なんて目立つのかしら。やっぱり凡人と出ているオーラが全く違う。
周りの生徒達の反応に慣れているみたいだけど、私は今すぐこのキャーキャーとうるさい場所から立ち去りたい。
「何でしょう」
私は作り笑顔で答えた。
「今日から俺達と一緒の授業を受けろ」
「はい?」
「アリちゃんは元々異例としてこの学園に入って来たんだし。それに頭も良いから大丈夫だよ」
絶対に嫌よ。
今は魔法が使えないもの。デューク様達と同じ教室ってリズさんも一緒でしょ?
リズさんの前で私は醜態を晒すわけにはいかないんですもの。
「お断りしますわ」
私は満面の笑みでそう言って教室に入ろうとした。
「俺を近くで守るって言ったのは嘘だったのか?」
デューク様がそう言ってニヤッと笑った。
……そうだったわ。勢いでそんな事を言ってしまったんだわ。
「アリちゃん、嘘つく子じゃないよね」
カーティス様……。私の性格を知っていてわざと言っているんですよね?
この人が一番厄介なのかもしれないわ。
私は固まったままデューク様とカーティス様を見つめる。
「けど、いきなり最高学年はないんじゃない?」
ジルが助け舟を出してくれた。
ああ、ジル有難う!
そうよ、五年も飛び級なんておかしいわ。
それに最高学年って事はアルバートお兄様にゲイル様がいる。
間違いなく険悪な雰囲気で授業を受ける事になるわ。
「じゃあ、俺がアリシアと一緒にいたいって理由なら?」
はい!?
私は思わず口を開けてしまった。
最悪だわ、悪女は感情を顔に出さないのに。
デューク様のキャラが崩壊してるわ。
というか、その顔は私をからかっているんですか?
「それはあまりにも勝手すぎでは?」
「思った事を口に出しただけだ」
「……無口の方が良かったわ」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
ああ、これは自業自得よね。
私がいらない事を言ったからこんな事になったんだわ。
約束を破る女なんて思われたくないわ。
どうすればいいのよ!
「いいから来い」
そう言ってデューク様は私に近づき私をひょいと肩に担ぐ。
「え?」
またこの体勢?
大勢の生徒達の前で私を担いでいるの?
私の悪女としての威厳が……。
「降ろしてください!」
「前もしただろ」
「場所と状況が全く違うわよ!」
「その喋り方の方がいい。敬語はこれから俺に使うなよ」
「どうして命令されないといけないのよ!」
私が必死に暴れてもデューク様はがっちりと私を掴んでいてびくともしない。
「カーティス、行くぞ」
「了解……担いだ方がいい?」
カーティス様はジルの方を見てそう言った。
ジルは首を勢いよく横に振る。
ちょっと、ジル、裏切らないでよ。私を助けてよ。
「これは誘拐です!」
「喋り方」
「デューク様に従うなんて一言も言っていないですわ」
「アリシアの好きなリズも教室にいるぞ?」
そう言って、デューク様が意地悪な笑みを浮かべる。
……わざとだ。
こんなにも意地悪だったなんて。前から薄々感じていたけど……。
もしかして、私が魔法を使えない事分かっているんじゃ。
レベル100のデューク様なら知っているかもしれないわ。
だって目を誰かにあげるなんて魔法でしか出来ないもの。
でも、まだ私が魔法を使えないって事をデューク様が知っているとは断定できないわ。
「あの……いざという時は助けてくださいね?」
私は遠回しにそう聞いた。
「自力でどうにかするのが好きなんじゃないのか?」
デューク様は私を見透かすようにそう言った。
……自分の言った事にこんなに後悔するなんて。
今日は本当についていないわ。
「大丈夫、デュークは絶対助けてくれるよ」
そう言ってカーティス様がデューク様に聞こえない声で私の耳元で囁いた。




