120
生徒達の視線が鋭い。
私の目の前で悪口を言わなくなったのは殴られると思っているからだろう。
だからって、そんなに遠慮なしに蔑むような目で私を見るなんてなかなか凄いわ。
眼帯なんてまさに悪って感じで私的には物凄く格好いいと思っているんだけど、世間の目はそうじゃないみたいね。
「ここに入るの?」
ジルが食堂の前で顔を少し引きつらせながらそう言った。
多分、今私もジルと同じ表情をしていると思う。
食堂の中の人口密度ってこんなに高かったのね。
魔法学園で一番人が多い場所ってここなんじゃないかしら。
……勢いよく来たのはいいけど、デューク様の所まで無事に辿り着けるかしら。
食堂から生徒達の騒がしい声が聞こえてくる。
「行くわよ」
意気込んでそう言った。
ジルも覚悟を決めたように力強く頷いた。
私達が食堂に入った瞬間、全員が喋るのを止めて私達の方を見る。
あら、まさかこんなに静まり返るとは思わなかったわ。
私がゆっくり歩き出すと周りの生徒達が私に道を作るように離れていく。
……凄いわ。私、まるで女王様みたいだわ。
表情には全く出さないようにして心の中で満足気に頷く。
私達を見ているその目は驚いている目と非難する目の二種類ね。
関わった事のない人達にこんな目で見られるようになるなんて私も凄いわね。
別に喋ってくれてもいいのに全員黙ったまま、食べる事も止めて私を見ている。
……なんだか、そこまで注目されると恥ずかしくなってくるわね。
「私まるで有名人みたいね」
私は誰にも聞こえないようにジルに向かって囁いた。
ジルがそれを聞いて小さくため息をついた。
「有名人みたいじゃなくて、有名人だよ」
ジルが小さい声で私に向かってそう言った。
「何で有名になったのかしら?」
「さぁ?」
「悪女としてだったらいいのに……」
「……多分そんな感じで有名だと思うよ」
ジルが顔をしかめながらそう言った。
私、相当ジルに呆れられているみたいだわ。私よりも随分年下なのに。
「あそこにいるのデュークじゃない?」
ジルが私のスカートを軽く引っ張った。
私はゆっくりジルが指差している方向に目を向けた。
……二階?
メルはテラスだって言っていたのに、普通に食堂の二階にいるじゃない。
食べる場所は気分次第って事? 流石貴族ね。
というか、食堂に二階なんてあるのね。
大きい煌びやかなソファ、豪華なシャンデリア、優雅な音楽……決められた人しか行けないみたい。
貴族の中でも格差は凄いわね、改めて感じるわ。
格差自体は当たり前だから別にいいんだけど……格差を否定しそうな子が一人混じっているのが不思議ね。絶世の美女って彼女みたいな事をいうのかしら。
それにしても懐かしい顔ぶれだわ。二年間でこんなに大人っぽくなるのね。
……私を見る目も随分と変わったみたいだけど。
普通、実のお兄様にそんなに睨まれる事なんてないわよ。
睨んでいるというより私の顔を見て驚いているみたいだわ。
久しぶりに会ったと思えば眼帯しているんだもの、そりゃ驚くわよね。
デューク様だけ驚いている理由は違うみたいだけど。
まさか私が食堂に来るなんて思わなかったのね。
私は背筋を伸ばして、ゆっくり階段の方へ向かった。