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歴史に残る悪女になるぞ  作者: 大木戸 いずみ


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「アリシア、その目はどうしたんだ?」

 急に真剣な雰囲気でデューク様が私を見ながら口を開く。

 あら、会ってすぐなのにそこ気にするの? まぁ、気になるわよね。

「何でもありませんわ」

 わざとらしい笑顔を作ってそう言った。

「誤魔化しても意味ないぞ」

 鋭い青い双眸が私に向けられる。

 一瞬身震いしそうになった。なんだか前よりも威力が増している気がするわ。

 きっと、何か嘘をついてもすぐにばれるわよね。 

「目をある方に差し上げたのですわ」

 私は笑顔を崩さずに明るい口調でそう言った。

 デューク様の目が大きく開いた。

 メルもさっきまでニコニコしていたのに固まって瞠目している。

「どういう事!?」

 先に口を開いたのはメルだった。

 メルの高い声が私の耳に爆発音のように響いた。

「だから、私の」

 もう一度説明しようとした瞬間、デューク様の手が私の頬に触れた。

 なんだか力が強い気がします……。

 私はデューク様の顔をゆっくり見上げた。

 ……鬼の形相ってこういう時に使うのかしら。

 デューク様が険しい目で睨むように私を見ている。彼が私をこんな目で見るのは珍しい。

「何故だ」

 その声はとても低く、私は全身に鳥肌が立った。……怒っている。

 彼の雰囲気に呑まれて言葉が出ない。なんて圧力なのかしら。思わず怖いと思ってしまう。

 ジルもメルもデューク様の様子に驚いているようだ。

「今まで俺がどんな気持ちで見守ってきたか分からないだろう。幼い頃から悪役を演じていて、それを楽しんでいる事も知っていた。アリシアが良いなら俺は」

 中途半端な所でデューク様は話すのを止めた。

 さっきまでの怒りはデューク様の瞳から消えていた。それよりももっと私の心をえぐる切ない悲しい瞳をしていた。

 悪役を演じていた事がばれてたの……? 

 デューク様なら確かにそれは見抜いていたかもしれない。けど、こんなにもあっさり言われるなんて。

「……私、デューク様に見守って欲しいなんて頼んだ覚えありませんわ」

 気付けば私はこんな最低な言葉を発していた。

 一生後悔すると分かっていても、言ってしまったのだ。

 悪女なら……きっとそう言っていたわ。

 だって、棘のある言葉を言うのが悪女の仕事だもの。

 でも、悪女になれて嬉しいはずなのに、どうしてこんなにも心が痛いのかしら。

 これが悪女への道なら本当に苦行ね。

「そうか、悪かった」

 デューク様は苦しそうに笑った。

 ……彼のそんな表情を生まれて初めて見た。

 私は自分の発した言葉に対して死ぬほど後悔した。

 けど、口に出してしまったものはもう二度と消すことは出来ない。 

 彼はそっと私の頬から手を離して来た道を帰って行った。

 私は茫然とその背中を見つめていた。 

 デューク様のあの表情が頭から離れない。

 無意識に発した一つの言葉にこれほど後悔する日が来るなんて思わなかった。

 自分のした事がとても重い罪のように感じた。

 私のなりたかった悪女って……こんなのじゃないわ。

「アリアリって馬鹿なの? 最低だよ」

 メルが私を睨んだ。今日聞いた中で一番低い声だった。彼女の言葉が心に刺さる。

 分かっているわ、自分が今どんだけ最低な事をしたのか。

 それを口にしようと思っても私は声が出なかった。

 二年間誰とも会話をしなかったから、どうすればいいのか分からない。それを言い訳にしてはいけないのは分かっている。

 頭が混乱していると余計に何も言葉に出来なくなる。 

 こんな最低な女になってしまうなんて。

 私は人と触れ合う事を忘れてしまう恐怖を今日初めて知った。

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